井上 淳子, 上田 泰「アイドルに対するファンの心理的所有感とその影響について ― 他のファンへの意識とウェルビーイングへの効果 ―」『マーケティングジャーナル』2023 年 43 巻 1 号 p. 18-28

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本研究はアイドルを応援する(推す)ファンがアイドルに対して心理的所有感を持つことを主張し,その影響について論じるものである。具体的には,アイドルに対するファンの心理的所有感は,同じアイドルの他のファン(同担)に対する複雑な意識を生み出し,さらにその意識が当人のウェルビーイングと推し活動を継続させる原動力となることを理論的かつ実証的に明らかにする。550人のアイドルファンから収集したデータを分析した結果,アイドルに対する心理的所有感は心理的一体感と心理的責任感から構成され,心理的一体感が同担仲間意識に,心理的責任感が同担競争意識に影響を及ぼすことが実証された。また,ファンのウェルビーイングは2つの同担意識からともに正の影響を受ける一方で,現在のアイドルを推し続けたいという推し活継続性は,心理的一体感と同担仲間意識から正の影響を受けるものの,同担競争意識から負の影響を受けることが明らかになった。

 

ウィリアム・シェイクスピア著,松岡和子訳『シェイクスピア全集Ⅰ ハムレット』(1996)

 

デンマークの王子ハムレットは、父王の亡霊から、叔父と母の計略により殺されたことを知らされ、固い復讐を誓った。悩み苦しみながらも、狂気を装い、ついに復讐を遂げるが自らも毒刃に倒れる。美しい恋人オフィーリアは、彼の変貌に狂死する。数々の名セリフを残したシェイクスピア悲劇の最高傑作の新訳。脚注・解説・日本での上演年表付き。

 

白川晋太郎著『ブランダム 推論主義の哲学 ープラグマティズムの新展開』(2021)

 

カント、ヘーゲル、セラーズ、ローティ、ウィトゲンシュタインマクダウェルなどの議論を自在に取り込みながら、独自の理論体系を構築し、プラグマティズムを牽引するアメリカの哲学者ロバート・ブランダム。言語と世界はどうつながっているのか。文の「正しさ」や推論の「適切さ」はどのように決まるのか。いま熱い視線が注がれる「推論主義」の基礎から応用までを網羅する、はじめての本格的入門書。

はじめに

Ⅰ 言語と規範

第1章 言語哲学プラグマティズムの歴史
 1 意味の指示説
 2 言語論的転回
 3 意味の検証説
 4 セラーズの「所与の神話」批判
 5 ローティの反表象主義
 6 真理条件的意味論


第2章 ブランダムはなぜ「推論」に注目するのか
 1 ブランダムの公式見解
 2 合理主義
 3 言語的プラグマティズム
 4 推論主義が導かれた


Ⅱ 推論主義の基本

第3章 規範的語用論
 1 規範的地位と規範的態度
 2 言語的実践におけるコミットメントと資格のやりとり
 3 そもそも規範とはなにか
 4 主張と推論の関係
 5 推論に取り込まれる世界
 6 具体的な会話を記述する
 7 規範的語用論の「ゆるさ」

第4章 推論的意味論
 1 「指示」や「真理」というものの役割は?
 2 推論的意味論の三つのレベル
 3 文の意味
 4 単称名と述語の意味
 5 直示語の意味
 6 さいごに言葉の表象的な次元を導出

コラム 推論主義のもう一つの読み方


Ⅲ 推論主義の応用

第5章 「意味の理論」としての推論主義
 1 他人が言っていることを理解できなくなる?
 2 相互理解のためには意味内容を共有する必要はない
 3 合成性の問題
 4 推論主義でも合成性を説明できるかもしれない
 5 そもそも合成原理は必要ない

第6章 推論主義を応用してみる
 1 精神病理
 2 フィクション(虚構)
 3 社会制度


Ⅳ 失われた二つの客観性を求めて

第7章 推論主義は相対主義
 1 まずは課題を確認
 2 『明示化』における試み
 3 相互承認論へ
 4 承認欲求に訴えよう
 5 『信頼の精神A Spirit of Trust』という書物
 6 「規範に関する現象主義」と「規範的現象主義」の両立という課題
 7 「想起」とは何か
 8 想起の客観性は?
 9 なぜ想起するのか

第8章 世界に応答できるか
 1 他者の視点によって世界とつながる?
 2 「因果的制約」を考えればいいのか
 3 ブランダムの「絶対的観念論」
 4 告白と赦し―信頼で結びついた共同体
 5 認識的な客観性とは
 6 肝心の世界応答性としての客観性は?
 7 言語的観念論の「治療」
 

おわりに

用語集
読書案内
謝辞
注/参考文献/索引

 

佐藤俊樹著『社会学の新地平ーウェーバーからルーマンへ』(2023)

 

マックス・ウェーバーニクラス・ルーマン――科学技術と資本主義によって規定された産業社会の謎に挑んだふたりの社会学の巨人。難解で知られる彼らが遺した知的遺産を読み解くことで、私たちが生きる「この」「社会」とは何なのかという問いを更新する。社会学の到達点であり、その本質を濃縮した著者渾身の大作。

序 章 現代社会学の生成と展開
 一 二人の学者と二つの論考
 二 ウェーバー像の転換

第一章 「資本主義の精神」再訪──始まりの物語から
 一 ウェーバー家と産業社会
 二 二つの戦略ともう一つの資本主義
 三 「禁欲倫理」の謎解き
 四 会社と社会

第二章 社会の比較分析──因果の緯糸経糸
 一 研究の全体像を探る
 二 会社制度の社会経済学

第三章 組織と意味のシステム──二一世紀の社会科学へ
 一 「合理的組織」の社会学
 二 組織システムへの転回
 三 決定の自己産出と禁欲倫理
 四 ウェーバールーマンの交差──因果と意味

終 章 百年の環

 あとがき
 ウェーバーの主要な著作・論文の年譜

37「当時のドイツ語圏の優秀な学者には、過労で鬱病になった人が複数いる」

潮木『ドイツ近代科学を支えた官僚』

91 自由な労働の合理的組織

126 黒田『商人たちの共和国』

147 適合的因果

160「ある程度の規模の経済社会において近代資本主義の成立/不成立の直接の原因になるのは、合理的な行政や司法の有無であり、それを社会的にささせる重要な条件として、それと同型のしくみをもつ宗教倫理などがある」

161 近代資本主義を成立させた具体的原因①プロテスタンティズムの禁欲倫理、②会社の名の下で共同責任制をとり、会社固有の財産をもつ法人会社の制度

252「【3】このような禁欲倫理と同型の「自由な労働の合理的組織」は、19世紀以降の本格的な産業化のなかで、企業だけではなく、行政や法を「人に拠らない」形で、それゆえ制度それ自体の論理にしたがって「形式合理的」に運営する制度的手段となった」

253「【4】こうした禁欲倫理は、18世紀以降のニューイングランドの社会で特定の人格に帰属しない会社組織や政治組織、すなわち「信仰者たちの教会」としれを保護する自治政府を運営していく後押しにもなった」

 

木庭顕著『クリティック再建のために』(2022)

 

本書が掲げる「クリティック」は、ふつう「批評」や「批判」という日本語に訳されます。しかし、それらの語では十分に表されない意味が「クリティック」には含まれていることを日本の知的世界は気づかずにきました。その状況を憂える碩学が、これまでの仕事を総括するとともに、将来の知の土台を提供するべく、本書を書き上げました。
「クリティック」とは「物事を判断する場合に何か前提的な吟味を行う」という考え方です。その系譜をたどる道程はホメーロスから開始されます。そこからヘーロドトスとトゥーキュディデースを経てソークラテース、プラトーンに至る古代ギリシャの流れは、キケローやウァッローの古代ローマを経由する形で、一四世紀イタリアのペトラルカ、ヴァッラに至って「人文主義」として開花しました。この流れの根幹にある態度――それは、あるテクストを読み、解釈する前に、それは「正しいテクスト」なのか、そして自分がしているのは「正しい解釈」なのかを問う、というものです。こうした知的態度は古代ギリシャ以来のものであり、のちの者たちはその古代ギリシャ以来の態度に基づいて古代ギリシャのテクストを読み、解釈してきました。そして、それこそがヨーロッパの知的伝統を形作ってきた営みにほかなりません。
この系譜は、近代と呼ばれる時代にデカルトスピノザによって変奏され、ついには実証主義ロマン主義の分岐を生み出します。その分岐を抱えたまま、現代に至って構造主義現象学という末裔を出現させました。こうして、古代ギリシャから現代にまで至る流れを「クリティック」を軸にして全面的に書き換えること――そこに浮かび上がる思想史は、まさにその知的伝統から日本が外れているという事実を否応なく突きつけてくるでしょう。この欠如がいかなる現実をもたらしているのか。本書は、現代の危機のありかを暴き、そこから脱出するための道を示して閉じられます。
ここにあるのは、三部作『政治の成立』、『デモクラシーの古典的基礎』、『法存立の歴史的基盤』、日本国憲法を扱う『憲法9条へのカタバシス』、そして話題作『誰のために法は生まれた』など、数々の著作で圧倒的な存在感を示してきた著者からの渾身のメッセージです。

第I章 クリティックの起源
1 基礎部分の形成/2 出現/3 混線/4 アンティクアリアニズムのヘゲモニー
第II章 クリティックの展開
1 人文主義/2 ポスト人文主義──クリティックの分裂/3 近代的クリティックの始動/4 近代的クリティックの展開/5 実証主義
第III章 現代の問題状況からクリティック再建へ
1 リチュアリスト/2 社会構造/3 言語/4 現象学/5 パラデイクマの分節/6 構造主義/7 現状の再確認/8 クリティック再建のために

 

小泉悠著『ウクライナ戦争』(2022)

 

2022年2月24日、ロシアがウクライナに侵攻し、第二次世界大戦以降最大規模の戦争が始まった。国際世論の非難を浴びながらも、かたくなに「特別軍事作戦」を続けるプーチン、国内にとどまりNATO諸国の支援を受けて徹底抗戦を続けるゼレンシキー。そもそもこの戦争はなぜ始まり、戦場では一体何が起きているのか?数多くのメディアに出演し、抜群の人気と信頼を誇る軍事研究者が、世界を一変させた歴史的事件の全貌を伝える待望の書き下ろし。

第1章 2021年春の軍事的危機2021年1月~5月(バイデン政権成立後の米露関係;ゼレンシキー政権との関係)
第2章 開戦前夜2021年9月~2022年2月21日(終わり、そして続き;プーチンの野望 ほか)
第3章 「特別軍事作戦」2022年2月24日~7月(失敗した短期決戦の目論見;ウクライナの抵抗 ほか)
第4章 転機を迎える第二次ロシア・ウクライナ戦争2022年8月~(綻びるロシアの戦争指導;ウクライナの巻き返し ほか)
第5章 この戦争をどう理解するか(新しい戦争?;ロシアの軍事理論から見た今次戦争 ほか)