光瀬龍著『百億の星と千億の夜』(1973)

 

西方の辺境の村にて「アトランティス王国滅亡の原因はこの世の外にある」と知らされた哲学者プラトンは、いまだ一度も感じたことのなかった不思議な緊張と不安を覚えた……プラトン、悉達多、ナザレのイエス、そして阿修羅王は、世界が創世から滅亡へと向かう、万物の流転と悠久の時の流れの中でいかなる役割を果たしたのか?――壮大な時空間を舞台に、この宇宙を統べる「神」を追い求めた日本SFの金字塔。

 

トーマス・パー, ジョバンニ・ペッツーロ, カール・フリストン著, 乾敏郎訳『能動的推論 ー心、脳、行動の自由エネルギー原理』(2022)

 

ヒトにおける知覚、認知、運動、思考、意識…それぞれの仕組みの解明に向けた研究が進む中、それらをたった1つの原理で説明する画期的な理論が世界的に大きな注目を集めている。
――著者の一人、神経科学者フリストンが提起した「自由エネルギー原理」である。本書ではこの原理の意義を強調しながら、我々が生きる世界についての不確実性を解消する「能動的推論」を解く。認知的現象を統一的に説明した、今までにない新たなモデルを提供する書。

序 文
凡 例


 第Ⅰ部

1 序 章
  1.1 はじめに
  1.2 生物はどのようにして生存し,適応的に行動するのか?
  1.3 能動的推論:第一原理から行動を考える
  1.4 本書の構成
  1.5 まとめ

2 能動的推論への常道
  2.1 はじめに
  2.2 推論としての知覚
  2.3 生物の推論と最適性
  2.4 推論としての行為
  2.5 モデルと世界の間のずれを最小化する
  2.6 変分自由エネルギーの最小化
  2.7 期待自由エネルギーと推論としての行動計画
  2.8 期待自由エネルギーとは何か
  2.9 常道の終わりに
  2.10 まとめ

3 能動的推論への王道
  3.1 はじめに
  3.2 マルコフ・ブランケット
  3.3 サプライズの最小化と自己証明
  3.4 推論,認知,および確率的ダイナミクスの関係
  3.5 能動的推論:行動と認知を理解するための新しい基盤
  3.6 モデル,ポリシー,および軌道
  3.7 能動的推論のもとでのエナクティブ理論,サイバネティクス理論,予測理論の統合
  3.8 能動的推論:生命の誕生から主体性まで
  3.9 まとめ

4 能動的推論の生成モデル
  4.1 はじめに
  4.2 ベイズ推論から自由エネルギーまで
  4.3 生成モデル
  4.4 離散時間の能動的推論
  4.5 連続時間の能動的推論
  4.6 まとめ

5 メッセージパッシングと神経生物学
  5.1 はじめに
  5.2 微小回路とメッセージ
  5.3 運動指令
  5.4 皮質下構造
  5.5 神経修飾と学習
  5.6 連続的な階層と離散的な階層
  5.7 まとめ


 第Ⅱ部

6 能動的推論モデルを設計するためのレシピ
  6.1 はじめに
  6.2 能動的推論モデルの設計:4段階のレシピ
  6.3 どんなシステムをモデリングしているのか?
  6.4 生成モデルの最も適切な形とは
  6.5 どのように生成モデルを設定するか?
  6.6 生成プロセスの設定
  6.7 能動的推論を用いたデータのシミュレーション,可視化,分析,フィッティング
  6.8 まとめ

7 離散時間の能動的推論
  7.1 はじめに
  7.2 知覚処理
  7.3 推論としての意思決定と行動計画
  7.4 情報探索
  7.5 学習と新規性
  7.6 階層的推論または深い推論
  7.7 まとめ

8 連続時間の能動的推論
  8.1 はじめに
  8.2 運動制御
  8.3 ダイナミカルシステム
  8.4 一般化同期
  8.5 ハイブリッド(離散および連続)モデル
  8.6 まとめ

9 モデルベースのデータ分析
  9.1 はじめに
  9.2 メタベイズ
  9.3 変分ラプラス
  9.4 パラメトリック経験ベイズ法(PEB)
  9.5 モデルベースの解析手順
  9.6 生成モデルの例
  9.7 誤推論のモデル
  9.8 まとめ

10 感覚状態に反応する行動の統一理論としての能動的推論
  10.1 はじめに
  10.2 これまでのまとめ
  10.3 点をつなぐ:能動的推論の統合的視点
  10.4 予測する脳,予測する心,そして予測処理
  10.5 知 覚
  10.6 行為の制御
  10.7 効用と意思決定
  10.8 行動と限定合理性
  10.9 感情価,情動,モチベーション
  10.10 ホメオスタシス,アロスタシス,内受容処理
  10.11 注意,顕著性,認識的ダイナミクス
  10.12 規則学習,因果推論,および高速の般化
  10.13 能動的推論と他の分野:未解決の問題
  10.14 まとめ


補遺A-数学的背景
  A.1 はじめに
  A.2 線形代数
  A.3 テイラー級数近似
  A.4 変分法
  A.5 確率的ダイナミクス

補遺B-能動的推論の方程式
  B.1 はじめに
  B.2 マルコフ決定過程
  B.3 (能動的)一般化フィルタリング

補遺C-注釈付きMatlabコードの例
  C.1 はじめに
  C.2 予備知識
  C.3 尤 度
  C.4 遷移確率
  C.5 事前選好と初期状態
  C.6 ポリシー空間
  C.7 まとめよう
  C.8 シミュレーションとプロッティング

注 記
引用文献
訳者あとがき
索 引

 

トマス・M・ディッシュ著,浅倉久志,小島はな訳『SFの気恥ずかしさ』(2005=2022)

 

『歌の翼に』『いさましいちびのトースター』の奇才トマス・M・ディッシュのSF評論集、ついに登場!

SFの限界と可能性を論じた名講演「SFの気恥ずかしさ」をはじめ、新世代SF作家を批判してジョージ・R・R・マーティンに反論された伝説的評論「レイバー・デイ・グループ」、書評家として燃やすべき本について舌鋒鋭く語った「聖ブラッドベリ祭」、ディック作品に対する愛にあふれる『偶然世界』序文、そしてエイリアンに誘拐された体験記の書評が奇想天外な展開を見せる「ヴィレッジ・エイリアン」など、技巧とユーモアに満ちた書評・エッセイを集成。『歌の翼に』『アジアの岸辺』で知られるSF作家ディッシュの卓越した批評家としての面を堪能できる傑作SF評論集。〈ディッシュの文章には磨かれた知性があり、ユーモアがある〉若島 正(本書解説より)

*本書で取り上げられている作品(一部)
A・E・ヴァン・ヴォークト『非Aの世界』/ノーマン・スピンラッド『鉄の夢』/ウェルズ『モロー博士の島』/ポー「ベレニス」/ジーン・ウルフ新しい太陽の書〉四部作/ウィリアム・バロウズ裸のランチ』/バラード「夏の人食い人種たち」/オルダス・ハクスリーすばらしい新世界』/レイ・ブラッドベリ「黒い観覧車」/アーサー・C・クラーク『楽園の泉』/アーサー・C・クラーク2010年宇宙の旅』/アイザック・アシモフファウンデーションの彼方へ』/カート・ヴォネガットガラパゴスの箱舟』/スティーヴン・キング『恐怖の四季』/スティーヴン・キング『ペット・セマタリー』/フィリップ・K・ディックヴァリス』/ルーディ・ラッカー『ホワイト・ライト』/グレゴリイ・ベンフォード『タイムスケープ』/フィリップ・K・ディック『ゴールデン・マン』/ヴォンダ・マッキンタイア「霧と草と砂と」/ロバート・A・ハインライン『フライデイ』/『夜のエンジン』/L・ロン・ハバードバトルフィールド・アース』/フィリップ・K・ディック『ティモシー・アーチャーの転生』/ジョン・クロウリー『エヂプト』/ジョン・クロウリー『エンジン・サマー』/ジーン・ウルフジーン・ウルフの記念日の本』/ウィリアム・ギブスンモナリザ・オーヴァドライヴ』/ウィリアム・ギブスン『ヴァーチャル・ライト』/ウィリアム・ギブスンブルース・スターリングディファレンス・エンジン』/フィリップ・K・ディック『偶然世界』/フィリップ・K・ディック『最後から二番目の真実』/ホイットリー・ストリーバー『コミュニオン――異星人遭遇全記録』/ピーター・ワシントン『神秘主義への扉――現代オカルティズムはどこから来たか』/ロバート・A・ハインライン『自由未来』/『未知との遭遇』/ホイットリー・ストリーバー『宇宙からの啓示――異星人遭遇記録』/ピーター・アクロイド『原初の光』/ジョン・バース『船乗りサムボディ最後の船旅』/ウィリアム・S・バロウズ『シティーズ・オブ・ザ・レッド・ナイト』

第一部 森
SFの気恥ずかしさ 
イデア――よくある誤解 
神話とSF
壮大なアイデアと行き止まりのスリル――SFのさらなる気恥ずかしさ

第二部 祖先たち
ポーの呆れた人生 
墓場の午餐会――ゴシックの伝統におけるポー 
すばらしい新世界』再再訪 
テーブルいっぱいのトゥインキー 
原文ママ、ママ、ママ 
天国へのバス旅行 
宇宙の停滞期 
アイザック・アシモフ追悼 
世代の溝を越えたジョーク 
時間、空間、想像力の無限性――そしてとびっきりの筋肉 

第三部 説教壇
王(キング)とその手下たち――〈トワイライト・ゾーン〉書評担当者の意見
エスとの対話 
レイバー・デイ・グループ 
一九七九年――綿くずと水の泡 
ブラッドベリ祭 

第四部 選ばれし大きな樹
違った違った世界
クロウリーの詩
ウルフの新しい太陽
サイバーパンクのチャンピオン-――ウィリアム・ギブスンの二作品について
ヴィクトリア女王のコンピューター
ディックの最初の長篇
一九六四年にならえ

第五部 狂った隣人たち
ヴィレッジ・エイリアン
UFOとキリスト教の起源
SFという教会
まだ見ていない事実の確認
天国への道――SFと宇宙の軍事化
月光の下院議長―ニュート・ギングリッチの未来学参謀
未知との遭遇』との遭遇
最初の茶番

第六部 未来のあとで
生ける死者の日
おとぎの国バグダッド
SF――ゲットーへの案内
川を越えて、森を抜けて
首吊りの方法
天才キッズの秘密の暗号
とんちんかん、ちんぷんかん、ちちんぷいぷい

解説 若島正
訳者あとがき
索引

 

岡奈津子著『〈賄賂〉のある暮らし ー市場経済化後のカザフスタン』(2019)

 

ほんとうの豊かさとは?
1989から30年、市場化が問いかけるもの

ソ連崩壊後、独立して計画経済から市場経済に移行したカザフスタン。国のありかたや人びとの生活はどのような変化を遂げたのだろうか。

豊かさを追い求めた、この30年……

1991年のソ連崩壊後、ユーラシア大陸の中央に位置するカザフスタンは、独立国家の建設、計画経済から市場経済への移行という、大きな変化を潜り抜けてきた。その過程で、国のありかたや人びとの生活はどのような変化を遂げてきたのだろうか。
豊富な資源をもとに経済発展を続けるカザフスタンは、いまや新興国のなかでも優等生の一国に数えられる。
独立前からカザフ人のあいだにみられる特徴のひとつに「コネ」がある。そして、市場経済移行後に生活のなかに蔓延しているのが、このコネクションを活用して流れる「賄賂」である。経済発展がこれまでの人びとの関係性を変え、社会に大きなひずみが生じているのだ。
本書は、市場経済下、警察、教育、医療、ビジネス活動など、あらゆる側面に浸透している「賄賂」を切り口に現在のカザフスタンをみていく。賄賂は多かれ少なかれ世界中の国々でみられる現象だが、独立後のカザフスタンは、それが深刻な社会問題を生み出している典型的な国のひとつである。
ここから見えてくるのは、人びとの価値観の変容だけでなく、ほんとうの「豊かさ」を支える社会経済システムとはどのようなものかという問題だ。豊かさを追い求めた、この30年の軌跡。

プロローグ 〈賄賂〉を見る眼

第1章 中央アジア新興国カザフスタン
一 国土と住民
二 ナザルバエフ政権の功罪
三 民族と言語
四 人びとの暮らし

第2章 市場経済化がもたらしたもの
一 計画経済から市場経済
二 変化するライフスタイル
三 コネとカネの使い分け
四 カザフ人の親族ネットワーク

第3章 治安組織と司法の腐敗
一 警察とのつき合い方
二 買われる正義
三 兵役と青年
四 腐敗の構造

第4章 商売と〈袖の下〉
一 ビジネスの実態
二 なぜ賄賂を払うのか
三 住宅問題
四 ビジネスと非公式ネットワーク

第5章 入学も成績もカネしだい
一 変わる教育
二 大学と「市場原則」
三 学校と保育園
四 腐敗の再生産

第6章 ヒポクラテスが泣いている
一 医療システムの変容
二 賄賂か謝礼か
三 命の沙汰もカネしだい
四 医療をめぐる現実

エピローグ 格差と腐敗

註記
あとがき
初出一覧
附録
索引

 

小倉孝保著『100年かけてやる仕事 -中世ラテン語の辞書を読む』(2019)

 

100年の歳月をかけて、英国で『英国古文献における中世ラテン語辞書』が完成した。
市民の言語採取ボランティア「ワードハンター」たちと、英国学士院が総力を結集した
成果だった。
採算がとれず、生涯で完成を見られない事業へ、参加者はなぜ邁進したのか?
特派員記者の著者は関係者を訪ね歩き、日本語辞書の編者にも取材を広げていく。
効率優先の現代に“言葉と文化”の意義を探り、日本人の働き方をも問うノンフィクション。

第一章 羊皮紙のインク
第二章 暗号解読器の部品
第三章 コスト削減圧力との戦い
第四章 ラテン語の重要性
第五章 時代的背景
第六章 学士院の威信をかけて
第七章 偉人と奇人
第八章 ケルト文献プロジェクト
第九章 日本社会と辞書
第十章 辞書の完成

 

西井開著『「非モテ」からはじめる男性学』(2021)

 

恋人がいない、女性から好意を向けられない等の苦悩は、「非モテ」という言葉によって九〇年代後半からネットを賑わせてきた。現在も「非モテ」問題は多くの男性の心を捉えて離さない。しかし、本当に「非モテ」男性はモテないから苦しいのだろうか?男性性が内包する問題について研究し、当事者の語り合いグループを立ち上げた著者が、男性が「非モテ」という苦悩を抱くまでの過程や内実を掘り下げ、問題の背景や構造を解き明かす。そして「非モテ」の苦惱から抜け出すための実践まで、男性学の視点から提示していく。

第1章 「非モテ」とは何か
第2章 「ぼくらの非モテ研究会」
第3章 追い詰められる非モテ・自分を追い詰める非モテ
第4章 女神への執着と非モテ
第5章 非モテから離れる実践
第6章 非モテの苦悩の正体を考える
第7章 つながり出した非モテ
終章 隣り合って「男」を探求するということ

 

奥村隆著『反コミュニケーション』(2013)

 

 私はコミュニケーションが嫌いだ。できれば人と会いたくない。ひとりでいたい。電話もメールもしたくない。たとえば電子メールというものがあって、これを仕事上使わなくてはいけない。苦痛だ。いきなり誰かからメールが来て、それに返事をしなければならない。返事をしないこともあるが、返事をしないとなぜか気持ちが重くなってしまう。いやだいやだと思いながら、返事をする。いや、必要に迫られて、自分のほうからいきなりメールを送るときも多い。相手は私と同じようにメールを送られて苦痛だと思っているのだろうな、と思いながら。

序章 イントロダクション
 1.はじめに
 2.「よいコミュニケーション」とはなにか
 3.不気味な他者とともに

第1章 浸透としてのコミュニケーション――ルソー
 1.ふたつの経験
 2.浸透としてのコミュニケーション
 3.媒介者の空間

第2章 遊戯としてのコミュニケーション――ジンメル
 1.「結ぶ」と「分ける」
 2.距離とコミュニケーション
 3.社交、貨幣、自由

第3章 対話とディスコミュニケーション――ハーバーマス鶴見俊輔
 1.カフェにて
 2.対話としてのコミュニケーション
 3.ディスコミュニケーション

第4章 他者、承認、まなざし――レインとサルトル
 1.3つのユートピアニズム
 2.アイデンティティと承認
 3.まなざし、葛藤、誘惑

第5章 葛藤、身体、ダブル・バインド――レインとベイトソン
 1.家族のディスコミュニケーション
 2.遊びとダブル・バインド
 3.アイデンティティ vs. コミュニケーション

第6章インターミッション――ジラール
 1.B&Bにて
 2.模倣と自尊心
 3.ふたつの「死」

第7章 演技としてのコミュニケーション――ゴフマン(1)
 1.ダブル・ライフ
 2.表舞台/舞台裏
 3.思いやりとかげぐち

第8章 儀礼としてのコミュニケーション――ゴフマン(2)
 1.人格を礼拝する儀式
 2.透明のディストピア
 3.ルソー vs. ゴフマン

第9章 接続としてのコミュニケーション――ルーマン
 1.ダブル、ダブル、ダブル……
 2.接続としてのコミュニケーション
 3.ふたつの質問

第10章 パラドックスとしてのコミュニケーション――ベイトソンと吉田文五郎
 1.教育というコミュニケーション
 2.学習というコミュニケーション
 3.吉田文五郎のコミュニケーション

第11章 純粋なコミュニケーション――ギデンズ
 1.Aさんのレポート
 2.純粋なコミュニケーション
 3.レポートへのコメント

終章 反コミュニケーション
 1.研究室にて
 2.反コミュニケーション
 3.おわりに

あとがき