源河亨著『悲しい曲の何が悲しいのか ー音楽美学と心の哲学』(2019)

 

悲しい曲で人は悲しくはならない――
心の哲学を利用した美学の観点から、「音」とは何か、「聴取」とは何なのかを考察する。
 美しい音楽を聴いたとき人は感動を覚える。このような美的経験は日常にあふれているが、美しい/美しくないという判断にはどのような基準があるのだろうか。そしてどれほどの客観性があるのだろうか。
 
 本書では、美に関する経験や判断の問題を扱う美学に、心の哲学を利用してアプローチする。とりわけ「音楽聴取」に焦点をあわせ、美的判断の客観主義を擁護する立場をとりつつ、音とは何か、なぜ人は悲しい音楽を聴くのか、音楽と情動はどのように結びついているのか、などさまざまなトピックについて論じていく。

 はじめに


第1章 音楽美学と心の哲学
 1 聴取経験の分析
  問題となる聴取経験/情動とのアナロジー/概念分析と心の分析
 2 音楽美学の自然化
  哲学的自然主義反自然主義に関して


第2章 「美しい音楽」は人それぞれ?
 1 基本概念の整理
  判断と経験/美的判断と美的経験/美的性質と非美的性質
 2 実存性と客観性を分ける
  客観主義と主観主義/色をめぐる議論


第3章 「美しい音楽」の客観性
 1 正しい美的経験の条件
  ゼマッハ/ウォルトン
 2 なぜ評価が重要なのか
  ゴールドマン/レヴィンソン/ベンダー/評価と行為


第4章 心が動く鑑賞
 1 情動とは何か
  身体反応の感じ/感情価/評価
 2 情動なしに「鑑賞」できない
  感受性の学習


第5章 心が動けば聴こえが変わる
 1 知覚と情動は独立か?
  認知的侵入可能性/知覚と情動の複合体
 2 考えることと感じること
  情動以外の評価的状態/美的判断の個別主義


第6章 音を見る、音に触れる
 1 音はどこにあるのか
  出来事としての音/誰もいない森で木が倒れたら音はするのか
 2 現象学と知覚システム
  音が定位する場所/環境を聴く/知覚のマルチモダリティ


第7章 環境音から音楽知覚へ
 1 音楽とは何か
  芸術としての音楽/合目的性の鑑賞
 2 音楽を見る、音楽に触れる
  音楽パフォーマンス/マルチモーダルな音楽鑑賞


第8章 聴こえる情動、感じる情動
 1 音楽の悲しみと聴き手の悲しみ
  表出的性質/問題点の整理/問題となる事例
  表出的性質に関する四つの理論
 2 表出説と喚起説
  作者の情動と表出的性質/聴き手の情動と表出的性質


第9章 なぜ悲しい曲を聴くのか
 1 二つの問題と音楽情動
  負の情動のパラドックス/対象の欠如/キヴィーの音楽情動
 2 悲しむべきことがあるのか
  情動と気分の違い/自分の情動を間違える


第10章 悲しい曲の何が悲しいのか
 1 類似説とペルソナ説
  類似性と擬人化傾向/想像と物語的解釈
 2 二つは本当に対立しているのか
  表面上の対立点/擬人化と想像の違い/高次情動の表出性


結論 美学の自然化


あとがき
文献一覧
索引
 目次

 

エクマン『顔は口ほどに嘘をつく』

グッドマン『芸術の言語』

グレイシック『音楽の哲学入門』

パウエル『ドビュッシーはワインを美味にするか?』

シブリー『分析美学基本論文集』