仲嶺真, 田中伸之輔, 上條菜美子「高校生がSNSで知り合った異性と対面で会うまでのやりとり」『社会情報学』2019年, 8巻, 2号, p.159-168

本文

近年,SNS利用者数の増加が著しい。SNSを有効活用できれば良好な人間関係が築ける可能性が高まる一方で,SNSで知り合った異性と対面で会ったことによって未成年がトラブルに巻き込まれる事案が社会問題となっている。SNSで知り合った異性と対面で会う理由に関して,個人特性との関連や,やりとり内容との関連が検討されているものの,やりとり過程については十分に検討されているとは言い難い。SNSで知り合った異性と対面で会うまでには,継続的にやりとりが続いていると考えられるため,やりとり内容だけでなく,どのようなやりとりを経て対面で会うに至っているのかを検討する必要があると考えられる。そこで本研究では,高校生を対象に,SNSで知り合った異性とSNS上でどのようなやりとりを経た結果,対面で会うに至るかについて検討した。SNSで知り合った異性と対面で会った経験がある高校生および高専生207名を対象に,SNSで知り合った異性と行ったやりとりに関して調査した。その結果,地元が一緒であることや趣味などの共通の話題について継続的にやりとりをした結果,対面で会いやすくなることが示された。また,相手が自分に会いたい場合ではなく,自分が相手に会いたい場合に対面で会っていることも示された。これらを踏まえ,禁則的な防犯教育とは違った形の防犯教育が今後必要であることが議論された。

 

佐々木敦著『ニッポンの音楽』(2014)

 

ニッポンの音楽 (講談社現代新書)

ニッポンの音楽 (講談社現代新書)

 

一九六九年から始まる本書の物語は、「Jポップ」葬送の物語であり、ニッポンの寓話でもある。章題記載の音楽家のほか、小沢健二小山田圭吾ピチカート・ファイヴ小室哲哉安室奈美恵つんく♂Perfumeきゃりーぱみゅぱみゅ…etc.が登場。Jポップ誕生「以前」と「以後」の45年を通覧する。

第一部 Jポップ以前              
 第一章 はっぴいえんどの物語
 第二章 YMO(イエロー・マジック・オーケストラ)の物語

~幕間の物語(インタールード) 「Jポップ」の誕生~         

第二部 Jポップ以後              
 第三章 渋谷系と小室系の物語
 第四章 中田ヤスタカの物語

 

大澤真幸, 北田暁大著『歴史の〈はじまり〉』(2008)

 

歴史の〈はじまり〉

歴史の〈はじまり〉

 

世界の中心に行っても世界から疎外されているという感覚は解消できない……私と現在はどうつながっているのか。格差社会からアメリカ問題まで二人の社会学者による新しい歴史対談集。

まえがき 大澤真幸
ポスト〈日本戦後史〉にむけて
「その程度のもの」としてのナショナリズム
〈知らないこと〉の歴史学
「幼なじみ」という起源
あとがき 北田暁大

 

遠藤薫「AI/IoT社会における規範問題を考える計算社会科学とポスト・ヒューマニティ」『社会情報学』2019年, 8巻, 2号, p. 1-18

本文

20世紀後半に始まった「情報社会」は,21世紀に入って,より高度なレベルに達した。現代では,単に高機能のコンピュータおよびそのネットワークによって社会が効率化されるというだけでなく,人工知能(AI)技術や,世界のあらゆるモノが常時相互にネット接続されるIoT (Internet of Things)技術が,すでに深くわれわれの生活に浸透している。

このような状況の中で,いま注目されている学術領域が,社会情報学とも密接に関係する「計算社会科学(Computational Social Science)」である。計算社会科学とは,張り巡らされたデジタル・ネットワークを介して獲得される大規模社会データを,先端的計算科学によって分析し,これまで不可能であったような複雑な人間行動や社会現象の定量的・理論的分析を可能にしようとするものである。この方法論によって,近年社会問題化している,社会の分断,社会関係資本の弱体化,不寛容化など,個人的感情や社会規範,世論などの形成過程の解明に新たな可能性を切り開くことが期待される。その一方で,社会規範を逸脱する目的にこのような手法が応用されれば,かえって社会監視を密にしたり,情報操作を巧妙化したりする具になり,先に挙げた社会の分断などの問題を再帰的に拡大することも起こりうる。

本稿では,計算社会科学をキーワードとして,ポスト・ヒューマンの時代を射程に入れつつ,社会を解明する具としての科学と,社会の動態とが入れ子状になった今日のAI/IoT社会の規範問題について考察する。

Berman『デカルトからベイトソンへ:世界の最魔術化』(1981→2019) 

 Braidotti『ポストヒューマン』(2013→2019)

ポストヒューマン 新しい人文学に向けて
 

 Haidt『社会はなぜ右と左にわかれるのかー対立を超える道徳心理学』(2012→2014)

 

近藤和都「スクリーンの「移ろいやすさ」を制御するー戦時下日本の映画上映をめぐる規格化の諸相」『社会学評論』2019年, 69巻, 4号, p. 485-501

本文

スクリーンにおける映像の現れ方は,たとえば映画であれば「映写機・フィルム・スクリーン」といった器機の複合およびそれらを操作する主体の技法本稿では器機と技法を包括する語として〈技術〉を用いるの節合関係に応じて変容せざるをえない.この意味において,映像的なテクストは「移ろいやすい」性質を持つといえよう.したがって,映像受容のあり方は作品テクストの存立の基盤となる〈技術〉によって条件づけられる.以上を踏まえるならば,映像受容のあり方を捉えるためには,作品テクストを規定する〈技術〉をめぐる問いが不可欠となる.ここから本稿は,プロパガンダ映画の効果を最大化するために,作品テクストを理想的な〈技術〉において呈示することに国家的力点がおかれた映画法制定以降を対象時期として,統制側のアクターと興行側のアクターが交渉/協働しながら上映環境を再構成していく過程を描き出す.具体的には,スクリーンの「移ろいやすさ」を制御することでどの映画館においても同一の経験が媒介されることを目指して,上映作品・上映回数・映写技師・映写機器・従業員といった諸要素が「規格化」されていく様相に焦点を合わせる.考察を通じて,スクリーンにおける映像のあり方が〈技術〉の水準でいかに条件づけられるのかを示し,その上で,映像文化史を「移ろいやすさ」をめぐる制御の観点から展開することの含意について示す.

シャルチエ,ロジェ,1992,福井憲彦訳『読書の文化史—テクスト・書物・読解』

Friedberg, Anne, 2006, The Virtual Window: From Alberti to Microsoft, Cambridge: The MIT Press. =井原慶一郎・宗洋訳,2012,『ヴァーチャル・ウィンドウ—アルベルティからマイクロソフトまで』産業図書.

 Galloway, Alexander, 2004, Protocol: How Control Exists after Decentralization, Cambridge: The MIT Press. =北野圭介訳,2017,『プロトコル—脱中心化以後のコントロールはいかに作動するのか』人文書院

Manovich, Lev, 2001, The Language of New Media, Cambridge: The MIT Press. =堀潤之訳,2013,『ニューメディアの言語—デジタル時代のアート,デザイン,映画』みすず書房

 

高田佳輔「大規模多人数同時参加型オンライン ロールプレイングゲームのエスノグラフィー仮想世界において創発的サードプレイスをいかに生み育てるか」『社会学評論』2019年, 69巻, 4号, p. 434-452

リンク

先行研究では,大規模多人数同時参加型オンラインロールプレイングゲームの中に存在する仮想世界は,自宅や職場から隔離された心地の良い第3 の居場所である「サードプレイス」としての機能を有するとされる.しかし,仮想世 界におけるプレイヤーの本来の目的は「ゲームコンテンツ」を楽しむことにあり,どのような経緯で他者との世間話といった「交流」を目的に仮想世界に訪問するようになるかが明らかでない.本稿は,同一集団に属するプレイヤーら の語りや「ゲームコンテンツ」と「交流」の各プレイ時間の推移から,仮想世界はゲームコンテンツへの没入期および欠乏期を繰り返すことで,次第にゲームコンテンツを楽しむ場から交流を楽しむ場へと主役割が遷移する『創発的サ ードプレイス』であることを示した.また,創発的サードプレイスの成立には,サードプレイスの基盤を成す「交流」と,各成員の能動的な参加が肝要な「集団活動」との互恵関係が重要となることを示した.ゲームコンテンツ活動は, 集団を構成する成員が垂直的関係の中で共通目標の達成を目指すことで集団帰属意識を向上させ,交流活動の基盤となるコミュニティの成員間のつながりを維持・強化させていた.さらに,ゲームコンテンツ活動中の成員間の垂直的関係性と,交流活動における水平的関係性とが互いに侵食しないように作用させる関係規範の存在が,創発的サードプレイスの成立・維持に大きな影響を及ぼしていた.

 

佐藤義之著『「心の哲学」批判序説』(2020)

 

「心の哲学」批判序説 (講談社選書メチエ)

「心の哲学」批判序説 (講談社選書メチエ)

  • 作者:佐藤 義之
  • 発売日: 2020/04/10
  • メディア: 文庫
 

認知科学神経科学の隆盛によって、あらためて注目を浴びる「心の哲学」は、奇妙な主張をしている。「意識は物質世界の一領域である」「意識は自由な意思決定能力をもたない」本書はこういった議論に真っ向から対峙する。現象学的立場と進化論的議論から、心理学的意識と現象学的意識の本質、起源、その有用性の検証へ――。繊細にして雄大な、意識世界を辿る。

第一部 「心の哲学」との対決  

序 可能性の議論への違和感   
第一章 意識は無用か  
第二章 意識の有用性  
第三章 心は物質に宿る──スーパーヴィニエンス──  
第四章 運命を知りえぬことが、自由を私たちに残さないか  
第五章 意識は瞬間ごとに死ぬ?──ひとつの懐疑──    
第六章 意識とは誤解の産物である──消去主義の検討──   
第七章 「物理世界は完結し、心の働きかけを許さない」と言えるのか  

二部 意識は本当はどういうものか

第八章 意識の実像──ふたつの実存とふたつの視覚経路──
第九章 実践的意識が見る世界
結論