遠藤薫「AI/IoT社会における規範問題を考える計算社会科学とポスト・ヒューマニティ」『社会情報学』2019年, 8巻, 2号, p. 1-18

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20世紀後半に始まった「情報社会」は,21世紀に入って,より高度なレベルに達した。現代では,単に高機能のコンピュータおよびそのネットワークによって社会が効率化されるというだけでなく,人工知能(AI)技術や,世界のあらゆるモノが常時相互にネット接続されるIoT (Internet of Things)技術が,すでに深くわれわれの生活に浸透している。

このような状況の中で,いま注目されている学術領域が,社会情報学とも密接に関係する「計算社会科学(Computational Social Science)」である。計算社会科学とは,張り巡らされたデジタル・ネットワークを介して獲得される大規模社会データを,先端的計算科学によって分析し,これまで不可能であったような複雑な人間行動や社会現象の定量的・理論的分析を可能にしようとするものである。この方法論によって,近年社会問題化している,社会の分断,社会関係資本の弱体化,不寛容化など,個人的感情や社会規範,世論などの形成過程の解明に新たな可能性を切り開くことが期待される。その一方で,社会規範を逸脱する目的にこのような手法が応用されれば,かえって社会監視を密にしたり,情報操作を巧妙化したりする具になり,先に挙げた社会の分断などの問題を再帰的に拡大することも起こりうる。

本稿では,計算社会科学をキーワードとして,ポスト・ヒューマンの時代を射程に入れつつ,社会を解明する具としての科学と,社会の動態とが入れ子状になった今日のAI/IoT社会の規範問題について考察する。

Berman『デカルトからベイトソンへ:世界の最魔術化』(1981→2019) 

 Braidotti『ポストヒューマン』(2013→2019)

ポストヒューマン 新しい人文学に向けて
 

 Haidt『社会はなぜ右と左にわかれるのかー対立を超える道徳心理学』(2012→2014)