社会心理学講義:〈閉ざされた社会〉と〈開かれた社会〉 (筑摩選書)
- 作者: 小坂井敏晶
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2013/07/18
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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社会心理学とはどのような学問なのか。本書では、社会を支える「同一性と変化」の原理を軸にこの学の発想と意義を伝える。人間理解への示唆に満ちた渾身の講義。
第1部 社会心理学の認識論
科学の考え方
人格論の誤謬
主体再考
心理現象の社会性
第2部 社会システム維持のパラドクス
心理学のジレンマ
認知不協和理論の人間像
認知不協和理論の射程
自由と支配
第3部 変化の謎
影響理論の歴史
少数派の力
変化の認識論
第4部 社会心理学と時間
同一性と変化の矛盾
日本の西洋化
時間と社会
246「フェスティンガーも含め、1960年台までに提唱されてきた理論はすべて、人間は多数派に影響されるという前提に立ちます。人間の独立性を信じ、他人の意見に惑わされることなく、客観的に正しい答えが必ず選ばれると考えたアッシュだけが例外です。情報に関して影響源に依存するから、周囲との軋轢を避けるために自らの意見を曲げる。こう信じられていました。影響源に依存するという意味で、これらの理論は従属モデルと呼ばれます。また、社会秩序の維持を説明するという意味で機能主義モデルとも称されます」
247「しかし1970年代に入るとフランスのセルジュ・モスコヴィッシが、このような常識的発想に異を唱えます」
264「社会が閉じた系ならば、そこに発生する意見・価値観の成否はシステム内部の論理だけで決められます。規範に反する少数派の考えは否定され、多数派に吸収される。これが機能主義モデルです。それに対し発生モデルは開かれた系として社会を捉えます。システムの論理だけでは正否を決定されない撹乱要素がシステム内に必ず発生する。撹乱要素は社会の既存規範に吸収されず、社会の構造を変革してゆく。これがモスコヴィッシ理論の哲学です」