橋本努編著『現代の経済思想』(2014)

現代の経済思想

現代の経済思想

共産主義圏の崩壊以降、社会主義の可能性が失われ、目指すべき社会の理念が不透明になったことから、「経済をいかに認識すべきか」という根本問題がふたたび論じられている。経済思想は、経済認識の根幹にあり、欲望、価値、文化、自然などの概念連関を伴いつつ、広く人間と社会の基礎をなしている。本書は、現代において生と社会の指針を得るための新たな糧になるだろう。

まえがき[橋本努]

1 生きるために
  1-1 快楽──快楽が多ければよい人生か[米村幸太郎]
    (キーワード:福利、個人的価値、幸福度)
  1-2 欲望──なにに/なぜ人間はこれほど駆り立てられるのか[黒石晋]
    (キーワード:なにか未知なるもの、価値、事後選択)
   ■コラム 視野狭窄の効用
  1-3 幸福──幸福度研究は経済学に革命をもたらすか[本郷亮]
    (キーワード:主観的幸福、幸福度、功利主義
   ■コラム 信頼ホルモン「オキシトシン
  1-4 贈与──私たちはなぜ贈り合うのか[若森みどり]
    (キーワード:負債、社会関係、循環)
   ■コラム 災害復興
  1-5 労働──理想の仕事とはなにか[橋本努]
    (キーワード:拘り、本来性、ルサンチマン
   ■コラム 地理学的批判理論

2 善い社会のために
  2-1 価値──価値は価格に反映されているのか[藤田菜々子]
    (キーワード:倫理、バランス、制度)
   ■コラム 繁栄の法則
  2-2 平等──なぜ平等は基底的な価値といえるのか[井上彰]
    (キーワード:範囲性質、非個人的価値、反不平等主義、宇宙的価値)
   ■コラム リバタリアンパターナリズム
  2-3 ケア──両立支援は誰のためか[山根純佳]
    (キーワード:平等と差異、ケアの社会的評価、ワーク・ライフ・バランス)
  2-4 所有──所有は豊かさをもたらすか[沖公祐]
    (キーワード:占有、請求権、コモン・ストック)
   ■コラム ベーシック・インカム
  2-5 資本主義──なぜ安定と危機の交替を繰り返すのか[鍋島直樹]
    (キーワード:社会的蓄積構造、戦後コーポレート・システム、新自由主義
   ■コラム グローバリゼーションのトリレンマ

3 経済の倫理
  3-1 自然──経済にとって自然とはなにか[桑田学]
    (キーワード:自然の贈与、労働、依存)
   ■コラム なにもしない
  3-2 消費──消費者は環境に責任があるのか[根本志保子]
    (キーワード:政治的責任、規範、美徳)
   ■コラム 脱成長
  3-3 交換──赤ちゃん市場の問題とはなにか[山本理奈]
    (キーワード: 商品化、聖なるもの、貨幣)
   ■コラム 例外としての新自由主義
  3-4 文化と経済──市場は芸術の開花を阻害するか[鳥澤円]
    (キーワード: 文化政策、大衆文化、古典的自由主義
   ■コラム ショック・ドクトリン
  3-5 芸術の売買──美術市場に道徳はあるのか[持元江津子]
    (キーワード: 美術市場モラル、一次/二次市場、アートディーラー)
   ■コラム コモンウェルス

4 経済の生態
  4-1 市場──市場が社会秩序であるとはどういうことか[瀧川裕貴]
    (キーワード: 経済社会学、埋め込み、収穫逓増)
  4-2 慣習──生活にどう役立つのか[吉野裕介]
    (キーワード:明確化アプローチ、適応的慣習、慣習への順応)
   ■コラム 裏切りの効用
  4-3 嗜癖──アディクションは非合理な行為なのか[太子堂正称]
    (キーワード: 嗜癖と合理性、非自律的選好、信念依存性、プリコミットメント) 
   ■コラム 選択
  4-4 心理──損得勘定に感情は入っていないのか[松井名津]
    (キーワード: 感情、理性、意思決定)
   ■コラム プロスペクト理論
  4-5 企業組織──なぜ企業は存在するのか[三上真寛]
    (キーワード: 取引費用、ケイパビリティ、規模)
   ■コラム コミットメント契約
  4-6 企業家精神──企業家になるとはどういうことか[吉田昌幸]
    (キーワード: 企業家学習、市場理論、知識の成長理論)
   ■コラム ソーシャル・ビジネス
  4-7 経済神学──経済学者の社会的機能とはなにか[佐藤方宣]
    (キーワード:宗教としての経済学、市場のパラドクス、効率性の福音) 

58

社会システム学をめざして (シリーズ社会システム学)

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60
殺人ザルはいかにして経済に目覚めたか?―― ヒトの進化からみた経済学

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139
コスモポリタニズム

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169
事実/価値二分法の崩壊 〈新装版〉 (叢書・ウニベルシタス)

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国家はなぜ衰退するのか(上):権力・繁栄・貧困の起源

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グローバリゼーション・パラドクス: 世界経済の未来を決める三つの道

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365
《アジア》、例外としての新自由主義

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433 市場──市場が社会秩序であるとはどういうことか[瀧川裕貴]「ホワイトの議論では、市場における生産者たちの直面する原問題は、ナイト的不確実性の問題、つまり事前に計算して計画立てておくことが不可能な不確実性の問題である。そこで生産者たちの課題はこの根源的な不確実性をいかにして計算可能なリスクに縮減し、生産計画を画定するかという点にある。不確実性を縮減する認知の枠組みを認知図式とよぶとすると、こうした認知図式は社会的に構築される、というのがホワイトの主張である」
498 心理──損得勘定に感情は入っていないのか[松井名津]「行動経済学自体は1980年代から、カーネマンとトヴェルスキーの業績に基づきながらも、金融学の一部としてセイラーによって展開されたという歴史を持つ。セイラーは理論や統計および期待効用理論から導き出されたルールを意思決定のノーマティブ・ルールとし、実際の人間行動を記述する記述理論とした」