オルガ・トカルチュク著, 小椋彩訳『プラヴィエクとそのほかの時代』(1992=2019)

 

プラヴィエクとそのほかの時代 (東欧の想像力)

プラヴィエクとそのほかの時代 (東欧の想像力)

 

ポーランドの南西部、国境地帯にあるとされる架空の村プラヴィエク。そこに暮らす人々の、ささやかでありつつかけがえのない日常が、ポーランドの20世紀を映しだすとともに、全世界の摂理を、宇宙的神秘をもかいま見させる―「プラヴィエクは宇宙の中心にある。」2018年ノーベル文学賞受賞作家トカルチュクの名を一躍、国際的なものにし、1989年以後に書かれた中東欧文学の最重要作品と評される傑作、待望の邦訳刊行。

 

菊地成孔, 大谷能生著『東京大学のアルバート・アイラー-東大ジャズ講義録・歴史編』(2005)

 

今あるべき「ジャズの歴史」とは?そもそも「ジャズ」って何なのか?音楽家/文筆家・菊地成孔と気鋭の批評家・大谷能生が、スウィング・ジャズの時代から現在までの百年を語り倒す。三百人もの受講者を熱狂させ、刊行されるや音楽好きと本好きを沸かせたスリリングでポップな講義録

2004年4月15日講義初日 12音平均律→バークリー・メソッド→MIDIを経由する近・現代商業音楽史
2004年4月22日講義第2回 ジャズにおいてモダンとは何か?―ビバップとプレ・モダン・ジャズ
2004年5月6日講義第3回 モダンとプレ・モダン―50年代に始まるジャズの歴史化・理論化と、それによって切断された事柄について
2004年5月20日講義第4回 1950年代のアメリカと、ジャズ・モダニズムの結晶化
2004年5月27日講義第5回 1959~1962年におけるジャズの変化(1)
2004年6月3日講義第6回 1959~1962年におけるジャズの変化(2)
2004年6月10日講義第7回 フリー・ジャズとは何からのフリーだったのか?
2004年6月24日講義第8回 1965~1975年のマイルズ・デイヴィス(1)コーダル・モーダルとフアンク
2004年7月1日講義第9回 1965~1975年のマイルス・デイヴィス(2)電化と磁化
2004年7月8日講義第10回 MIDIモダニズムの終焉〔ほか〕

 

稲葉振一郎著『AI時代の労働の哲学』(2019)

 

AI時代の労働の哲学 (講談社選書メチエ)

AI時代の労働の哲学 (講談社選書メチエ)

  • 作者:稲葉 振一郎
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2019/09/12
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

AI(人工知能)が人間の仕事を奪う――これは「古くて新しい問題」です。馬車は自動車になり、工場はオートメーション化される。技術(テクノロジー)は、いつの時代も仕事を変えるのです。では、AIのインパクトは、これまでの機械化と同じなのか、決定的に違うものなのか。「労働」概念自体から振り返り、資本主義そのものへの影響まで射程に入れて検討します。

はじめに

1 近代の労働観
 労働とは何か
 アダム・スミス
 G・W・F・ヘーゲル
 カール・マルクス(1) 疎外された労働
 ジョン・ロック
 カール・マルクス(2) 生産/コミュニケーション
 カール・マルクス(3) 疎外の複層性

2 労働と雇用
 雇用・請負・委任(1)
 雇用の二極
 資本主義と雇用
 雇用・請負・委任(2)
 リスクと労働
 資本家の労働
 労働と財産
 産業社会論(1)
 産業社会論(2)

3 機械、AIと雇用
 AI化の前に
 AIブーム概説
 AIと生産現場の変化
 経済学と機械――古くて新しい問題
 労働市場の不完全性
 物的資本と人的資本
 コンピューター
 技術変化・機械化の経済学
 機械化・AI化と雇用
 技能偏向型技術変化

4 機械、AIと疎外
 疎外再び
 資本主義と官僚制
 物神性
 物象化はそう悪くもない?
 人工知能はどこまで新しいか
 人工知能の「人間」化?
 
5 では何が問題なのか?
 「人/物」二分法の解体
 徳と身分
 人と動物、動物としての人
 AIと身分制
 Internet of Things
 第二の自然
 人と動物の間、そしてAI

エピローグ AIと資本主義
 AIと「資本主義と社会主義
 そもそも「資本主義」とは何か? を少し論じてみる
 グローバリゼーションと情報通信革命
 AIと資本


あとがき

 

オード・ロカテッリ著, 大森晋輔訳『二十世紀の文学と音楽』(2001=2019)

 

二十世紀の文学と音楽 (文庫クセジュ)

二十世紀の文学と音楽 (文庫クセジュ)

 

いつの時代も文学と音楽は互いに影響を与え合ってきた。本書は、いずれの領域においても数々の実験的試みがなされ、創造的な可能性が飛躍的に高まった20世紀に焦点を当てる。印象主義表現主義、未来主義、ダダイスムといったさまざまな運動は、作家と作曲家の出会いの場となり、相互に影響がみられた。本書の第一部では、こうしたジャンルを越えた関係を歴史を追って検討する。第二部では、まず音楽にまつわるテクストを、つぎに100年のあいだに書かれた音楽小説をとりあげる。さらには詩と音楽、演劇とオペラといったテーマやジャンルごとに相互の関係を論じる。音楽に捧げられたテクストの数々へアプローチすることで、それぞれの領域が抱える複雑な関係を明らかにする。20世紀の音楽小説案内。

はじめに

第一部 二十世紀における文学と音楽の関係—歴史研究と比較詩学
 第一章 二十世紀初頭(一九〇〇—一九一八年)
  印象主義象徴主義
  表現主義とウィーン楽派の作曲家たち
  未来主義とキュビスム
  「音楽主義」について
  「ダダ」運動
 第二章 大戦間期
  サティ、コクトー、六人組……、そしてジャズ
  シュルレアリスム
  社会主義リアリズム、および芸術と全体主義とのかかわり
  音楽グループ「若きフランス」からシェフェールの音響実験まで
 第三章 一九四五年以後の文学と音楽
  戦後の音列技法—シェーンベルクとマン
  実存主義とジャズ、シャンソンとのかかわり
  音楽と「具体」詩
  レトリスムから音響詩へ
  ヌーヴォー・ロマンに耳を傾けて
 「ハプニング」から音楽劇へ
  ポスト・音列技法とその文学的モデル
  偶然性の音楽とウリポ
 第四章 二十世紀最後の数十年間
  ポストモダニスム
  こんにちのテクストとポピュラー音楽

第二部 二十世紀における文学と音楽の関係—ジャンル別の研究
 第一章 音楽についての著作
  理論的テクストにおけるジャンルの多様性
  「執筆する」作曲家から作家としての作曲家へ
  音楽に関する作家の発言
  往復書簡
 第二章 音響芸術の影響を受けた長編小説と中編小説
  二十世紀の音楽小説作品
  「音楽的」タイトル
  歴史小説
  「音楽的自己形成を扱う長編小説」
  「音楽的」長編小説の形式上の特色
  「声の小説」
 第三章 詩と音楽の諸関係
  音響芸術、声、歌の参照
  言語の音楽的可能性の活用
  言語の脱—意味論化とエクリチュールの音声化の試み
  詩の音楽性から音楽化された詩へ
  音楽とテクストの結合—結束と対立
  音楽と言語の類似性
 第四章 演劇とオペラの領域
  演劇における音楽的テーマ群から音楽の劇作法的な機能へ
  オペラの詩学
  二十世紀におけるオペラ演出から二十世紀のオペラまで
  文学作品の翻案
  オペラから音楽劇へ—テクストのステータスの変化

結論

訳者あとがき
参考文献
原注

 

倉田剛著『日常世界を哲学する-存在論からのアプローチ』(2019)

 

日常世界を哲学する 存在論からのアプローチ (光文社新書)

日常世界を哲学する 存在論からのアプローチ (光文社新書)

  • 作者:倉田 剛
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2019/08/20
  • メディア: 新書
 

存在論」とは、何かが「ある」とはどういうことかを考える哲学の一大分野である。起源は古代に遡るが、現代では、ある事実が成立するためには何が存在し、存在するもの同士はどのような関係にあるかを問題にする。具体的には「安倍内閣辺野古移転を正しいと信じている」という時の「信念」の主体は誰か、「パワハラ」は社会の中でどのように「ある」のか、「KY」の「空気」とはどのような性質を持つものかなど、あらゆる事象の前提、すなわち世界がよって立つ基礎を考察している。私たちの「当たり前」を問い直すことで、日常は違った相貌を現す。哲学の最前線を体感するスリリングな講義。

序 論 日常世界を哲学する
第1章 ハラスメントはいかに「ある」か?――「社会的事実」を考える
第2章 「空気」とは何か?――「社会規範」の分析
第3章 集団に「心」はあるのか?――全体論的アプローチ
第4章 時計は実在するのか?――「人工物」のリアリティーについて
第5章 サービスの存在論――私たちが売買する時空的対象
第6章 キャラクターの存在と同一性――「人工物説」の立場から

129 多くの哲学者が、種が実在的である基準を(1)各適性(determinateness)(2)心からの独立性(mind-independence)に求めてきた。著者は、以下の説は、自然種を人工物種に組み込もうとするあまり、私たちの志向的態度(心的態度)を無視する傾向があると指摘する(146)

132「人工物種と実在的な種のリストから排除する標準的理論は、ジョン・ロックによる実在的本質(real essence)と名目的本質(nominal essence)の区別から出発しました。ロックによれば、私達が各々の種の名前に結びつけた抽象観念は「名目的本質」です。それはある種を他の種から区別させる「尺度・限界」であるとも言われます。これに対し、実在的本質とは、「この名目的本質ならびにその種の全特性がもとづく実体の実在的構造(the Constitutuin on Substance)を指します」

134 実在的本質→種の帰属を決める内在的性質、名目的本質→分類を行う私たちの心の中の観念に依存する性質とされる。自然種理論は、この二分法にもとづき、自然種=実在種、人工物種=たんなる名目種と結論づける。

135 リチャード・ボイド「恒常的性質群の理論」((Homeostatic Property Cluster Theory, HPC説)「生物種を標準的な自然種理論の適用範囲の外に置くのではなく、むしろ生物種を中心に据えて自然種理論を組み立て直そうとする」あらゆる個体が例外なく性質を持つことは要求されない。

136 基底的メカニズム(underlying mechanism)=性質群の安定性に因果的に寄与する構造。

136「HPC説における自然種とは、それに属する個体のうちにまとまりをもって現れる安定した性質群、およびそのまとまりを生じさせる基底的メカニズムによって個別化される」

138 ルース・ギャレット・ミリカンの「固有機能」(proper function)クロフォード・エルダー, 植原亮「人工物種の基底的メカニズムは、起源論的な機能(etiological function)としての固有機能、およびそれが支える複製プロセス(copying process)である。=起源論的機能説

194「アレクシウス・マイノングというオーストリアの哲学者は、「FであることもFでないことも成り立たない」対象ーそれについて排中律が成り立たない対象を「不完全対象」と呼びました」

200「マイノング本人が「二次的な種類の存在」といった概念を用いていたか否かは別として、クリプキがマイノングに帰す区別は、現代の代表的なマイノング主義者たちには当てはまります。というのも、しばしば彼らは、「ハムレットは存在しない(do not exist)が、それはある(there is)」という言い回しを用いるからである。しかし、一般的に、クリプキにはじまる人工物説は、「存在する」と「ある」とのこうした区別を認めず、虚構のキャラクターは端的に存在する、しかも現実的に存在すると主張します」

210「マイノング主義では、二つのキャラクターが同一であるのは、それらがまったく同じ性質をエンコードする場合、かつその場合に限ると規定されます。「エンコード」という言葉は聞き慣れないでしょうが、ここでは虚構的対象がもつ一つの仕方だと理解して下さい」

ウェンディ・ブラウン著, 中井亜佐子訳『いかにして民主主義は失われていくのか-新自由主義の見えざる攻撃』(2015=2017)

 

いまや新自由主義は、民主主義を内側から破壊している。新自由主義は政治と市場の区別を取り払っただけでなく、あらゆる人間活動を経済の言葉に置き換えた。主体は人的資本に、交換は競争に、公共は格付けに。だが、そこで目指されているのは経済合理性ではない。新自由主義は、経済の見かけをもちながら、統治理性として機能しているのだ。その矛盾がもっとも顕著に現れるのが大学教育である。学生を人的資本とし、知識を市場価値で評価し、格付けに駆り立てられるとき、大学は階級流動の場であることをやめるだろう。民主主義は黙っていても維持できるものではない。民主主義を支える理念、民主主義を保障する制度、民主主義を育む文化はいかにして失われていくのか。新自由主義が民主主義の言葉をつくりかえることによって、民主主義そのものを解体していく過程を明らかにする。

序 デモスの崩壊
〈第一部 新自由主義的理性と政治的生〉
第一章 民主主義の崩壊  新自由主義が国家と主体をつくりなおす
第二章 フーコーの『生政治の誕生』  新自由主義の政治的合理性の見取り図
第三章 フーコー再訪  ホモ・ポリティクスとホモ・エコノミクス
〈第二部 新自由主義的理性を散種する〉
第四章 政治的合理性とガバナンス
第五章 法と法的理性
第六章 人的資本を教育する
終章 剥き出しの民主主義が失われ、自由が犠牲へと反転する

訳者あとがき
原注
索引

菊地成孔, 大谷能生著『東京大学のアルバート・ワイラー-東大ジャズ講義録・キーワード編』(2006→2009)

 

二〇世紀、記号化への欲望がジャズのモダニズムをドライヴした。菊地・大谷コンビによる東大ジャズ講義シリーズ第一弾。十二音平均律-バークリー・メソッド-MIDI、新たな視点でジャズ史を捉え直す。