【書評】流王貴義「岡崎宏樹著 『バタイユからの社会学―至高性,交流,剝き出しの生』」『社会学評論』2021年 72巻 1号 p.62-63

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岡崎『バタイユからの社会学―至高性,交流,剝き出しの生』

 

藤田 結子, 額賀 美紗子「家庭における食事の用意をめぐる意味づけ ―質的調査からみる育児期就業女性の対処戦略と階層化―」『社会学評論』2021年 72巻 2号 p.151-168

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本稿は,女性の社会進出と女性の階層化が同時に進む中,育児期に就業する女性は,食事に関わる家事が自分に偏る状況をどう意味づけているのか,「手作り規範」に注目して考察することを目的とする.リサーチクエスチョンとして,(1)「育児期に就業している女性は,食事の用意にどのような役割を見出しているのか」,(2)「手作り規範への態度は,就業形態,職業,学歴,世帯収入によって女性の間でどのような差異がみられるのか」を設定し,インタビューと参与観察,および写真撮影を調査方法に採用し,データを分析した.

調査の結果,第1の問いに関して,本調査の女性たちは「子ども中心主義」から食事の用意に母親役割を見出していることが明らかになった.第2の問いに関しては,就業形態や職業との関わりがみられた.つまり,母親役割の延長として働く非正規女性は「手作り=愛情」に肯定的な傾向がある一方で,正規フルタイムや準専門職の女性に手作り規範を批判的に捉える事例が複数みられた.また,世帯収入が高い者はサービスや商品を購入して時間を節約するなど,世帯収入によって対処戦略に異なるパターンがみられた.要するに,手作り規範の相対化にも,その対処戦略にも階層差が見出されたのである.

女性活躍推進と女性の階層化によって,階層の高いキャリア女性の間では手作り規範が弱まっても,非正規雇用やひとり親の女性は負担が重いままとなる可能性が示唆された.

 

小泉義之著『哲学原理主義』(2022)

 

政治や歴史といった概念と、倫理や刑法といったルールと、生老病死や福祉といった現実と、言葉や文学といったイメージと、予断も間断もなく向き合いつづけてきた哲学者の集大成。「もっと高いもの」を求め、あらゆる根底を疑い、ときに覆そうとしてきたその徹底した思考の軌跡、その全貌がいまここに。

はじめに

第I部 倫理/善悪
第1章 言葉の停止の問題 – アウグスティヌス『告白』第10巻をめぐって
第2章 責任の有限性のために
第3章 善なる行為と善なる存在 – ヘーゲル精神現象学』「良心論」に即して
第4章 動くことと動かされること – アリストテレス「アクラシア」論について
第5章 生還者の自尊 – 善の希薄理論のために

第II部 政治/経済/歴史
第1章 われわれは大学がなにをなしうるか、ということさえわかっていない
第2章 脳の協働 – ガブリエル・タルド経済心理学』を導入する
第3章 中世身分制研究の批判的検討
第4章 『徒然草』の〈反〉障害学
第5章 田辺元コミュニズム
第6章 意味の地質学、人類の腫瘍学 – 『悲しき熱帯』を読む

第III部 実存/存在/世界
第1章 存在と実存 – 「私」と「現」における
第2章 直観空間と脳空間 – 戸坂潤とジル・ドゥルーズ
第3章 リアリズム論争のために – 分析哲学のドイツ的総合の惨めさについて

第IV部 生死/病気/狂気/生殖
第1章 デカルト省察』における狂気と病気
第2章 刑罰と責任
第3章 自由意志の罪と罰 – 精神の自由のために
第4章 保険セールスマンとしてのハイデガー
第5章 疫病下のフーコー – 死に照らされた深い革命
第6章 哲学と病院 – フーコードゥルーズにおける
第7章 制作と生殖 – 西田幾多郎の生命論によせて

第V部 文学/言語
第1章 文学の門前
第2章 1969年の大江健三郎 – 狂気の形象から障害の形象へ
第3章 言霊を吹き込む死と子ども

あとがき 哲学のファンダメンタル

 

塩田武士著『騙し絵の牙』(2017→2019)

 

出版界と大泉洋という二つの「ノンフィクション」を題材に書く社会派にして本格ミステリ

『罪の声』を発表し、社会派ミステリーの新たな旗手に名乗り出た、塩田武士。第七回山田風太郎賞を受賞し「本屋大賞2017」第三位に輝くなど、日に日に支持の声が高まるなかで刊行された『騙し絵の牙』は、ノンフィクションを題材としている、という点で『罪の声』と共鳴する。ひとつは、市場規模は右肩下がりで救世主到来を待つ、出版界およびエンタメ産業の現状というノンフィクション。もうひとつは、誰もが知る国民的俳優である、大泉洋の存在というノンフィクションだ。奥付には、次のようなクレジットがある。「モデル 大泉洋」。映像の世界には最初から俳優のイメージを取り入れた役を作ろう、という「当て書き」の文化がある。本書は、主人公に大泉洋を「当て書き」して執筆された、前代未聞の小説だ。
主人公は出版大手の薫風社で、カルチャー誌「トリニティ」の編集長を務める速水輝也。40代半ばの彼は、同期いわく「天性の人たらし」だ。周囲の緊張をほぐす笑顔とユーモア、コミュニケーション能力の持ち主。部下からの信頼も厚いが、苦手な上司・相沢から廃刊の可能性を突きつけられ、黒字化のための新企画を探る。芸能人の作家デビュー、大物作家の大型連載、映像化、企業タイアップ……。
編集部内の力関係を巡る抗争やきな臭い接待の現場、出版業界に関する深い議論のさなかでも、ひとたび速水が笑顔を繰り出せば硬い空気がふっとやわらぐ。ひょうひょうとした速水の語りを発端とする登場人物たちの掛け合いがいちいち楽しい。相手も面白くさせてしまう魔法の話術は、誰かに似ている。大泉洋だ。「速水=大泉」の公式は、表紙や扉ページの写真以外に、会話の中からも強烈なリアリティが溢れ出している。
しかし、速水のそれは高い確率で「つくり笑い」であることを、文中から察することができる。どこまでが演技で、どこからが素顔なのか? 速水は何故ここまで雑誌と小説とを愛し、自らが編集者であることにこだわるのか。やがて、図地反転のサプライズが発動する。「速水=大泉」に必ず、まんまと騙される。
本書を読み終えて真っ先に想起したのは、塩田のデビュー作『盤上のアルファ』。将棋の棋士と新聞記者をW主人公に据えた同作のテーマは「逆転」だ。出版界の未来に新たな可能性を投じる「企画」として抜群に高品質でありながら、デビュー作から積み上げてきたテーマや作家性が十全に発揮されている。本作を最高傑作と呼ばずして何と呼ぶか。 評者:吉田大助(「野性時代」2017年10月号)

 

青山南編訳『パリ・レビュー・インタビューⅡ 作家はどうやって小説を書くのか、たっぷり聞いてみよう!』(2015)

 

「ときどき運良く自分の力以上のものが書けたりする。」(ヘミングウェイ)「わたしは無教養な技術屋だからさ。」(ヴォネガット)――ガルシア=マルケス、アーヴィング、ソンタグラシュディ……打ちとけた会話の中に〈創作の秘密〉が溢れだす。伝説のインタヴューから精選、圧巻の顔ぶれ! 文学ファン必読!

「ときどき運良く自分の力以上のものが書けたりする。」(ヘミングウェイ)「わたしは無教養な技術屋だからさ。」(ヴォネガット)――ガルシア=マルケス、アーヴィング、ソンタグラシュディ……打ちとけた会話の中に〈創作の秘密〉が溢れだす。伝説のインタヴューから精選、圧巻の顔ぶれ! 文学ファン必読!

 

飯田泰之著『ゼロから学ぶ経済政策ー日本を幸福にする経済政策のつくり方』(2010)

 

経済政策の基本である「成長政策」「安定化政策」「再分配政策」を、日銀の政策や年金問題など具体例をもとにわかりやすく解説。日本経済の処方箋を自らの手で作り出す最良の教科書登場!

第1章 幸福を目指すための経済政策(幸福と経済;経済政策の3つの柱;経済政策を考える出発点)
第2章 成長政策(成長政策の基本;市場の機能と競争政策;「市場の失敗」にどう対処するか)
第3章 安定化政策(安定化政策の基本姿勢;財政政策;金融政策)
第4章 再分配政策(再分配政策の基本理念;「セーフティネット」としての再分配政策;日本の社会保障制度の再分配機能をいかに変えていくべきか)