ミシェル・ウエルベック著, 大塚桃訳『服従』(2015=2015)

 

服従 (河出文庫)

服従 (河出文庫)

 

2022年仏大統領選。投票所テロや報道管制の中、極右国民戦線マリーヌ・ルペンを破り、穏健イスラーム政権が誕生する。シャルリー・エブド事件当日に発売された新たなる予言の書。

 

山崎望「「成熟社会論」 から 「ケアの倫理とラディカルデモクラシーの節合」 へ ―「新自由主義―権威主義」 への対抗政治構想」『年報政治学』2019年, 70巻, 2号, p. 2_13-2_35

本文

新自由主義権威主義ポピュリズムに対して、現在、自由民主主義は有効性と正統性の二つの側面で、危機に直面している。第1章で自由民主主義の危機について論じる。第2章では、成熟社会論を手掛かりに、自由民主主義の有効性と正統性が危機に陥った転回点である 「長い60年代」 の変動を論じる。第3章では、「個人の解放」 と 「直接性の噴出」 という観点からこの変動を把握する。

 第4章では、この変動から発展した四つの主要な構想、すなわち①新自由主義権威主義ポピュリズム③ケアの倫理・共同性論④ラディカルデモクラシー論の思想的配置を論じる。それを通じて、これらの四つの構想が自由民主主義への対抗構想という点では共通性を持ち、同時に、相互に対立している点を明らかにする。

 第5章では、現代日本の待機児童問題の事例に言及し、新自由主義権威主義ポピュリズムに対抗する、ケアの倫理・共同性論とラディカルデモクラシー論の節合を論じる。これらを通じて現代の自由民主主義に対する四つの対抗構想の源泉として 「長い60年代」 を捉え直すと同時に、そこから危機を脱する成熟社会論の刷新を模索する。

 

リンダ・シーガー著, 菊池淳子訳『アカデミー賞を獲る脚本術』(2003=2005)

 

アカデミー賞を獲る脚本術

アカデミー賞を獲る脚本術

 

優れた脚本には最高の秘密がある。本格派シナリオの書き方。

1 リアルな物語をうまく語るには
  ドラマの直線型構成/ストーリーを語る形式/旅のストーリー/描写のストーリー/反復型構成/平行型構成/らせん型構成/謎解き型構成/逆流型構成
2 映画的なストーリーをうまく語るには
  循環型構成/ループ型構成/映画的な時間の使い方/実験的な試みを成功させる
3 ストーリーを前進させ続けよ
  ストーリーの流れをはっきりさせ、統一感のある脚本をつくる/シークエンスをつくる/シーンのつなぎにアクションとリアクションの関係をつくる/リアクションを遅らせる/似たものを使ってシーンをつなぐ/対比によって勢いをつける/カットの間にある情報を読みとる/音楽や言葉遊びでつながりをつくる/つなぎがうまくいかないのは?/ストーリーやまとめる糸をつくる
4 名シーンをつくるには?
  設定のシーン/説明のシーン/きっかけのシーン/ラブシーン/直面のシーン/清算のシーン/解決のシーン/気づきのシーン/決断のシーン/行動のシーン/反応シーン/気づきー決断ー行動のシーン/フラッシュバック/枠組みのシーン/啓示のシーン/悟りのシーン/熟考のシーン/魔法と神秘のシーン/人目を引き付けるシーン/モンタージュ
5 ひねりと転換、「秘密」と「嘘」の使い方
  転換の定義/ひねりをつくる/秘密と嘘をすっぱ抜く
6 何についての映画なのか?
  偉大な脚本家とはなにか?/アイデンティティという永遠のテーマ/動きのあるテ-マ/テーマはどのように表現されるか?/観客層にあったテーマ/テーマに関連した問題を見つける/ストーリーの要点をまとめるテーマ
7 語るより映像で見せる
  背景としての映像/映画全体に現れる映像/対照的な映像/映像のメタファーをつくる/体系的映像/映像が浮かぶように書く
8 登場人物には見た目以上の魅力がいる
  だれ?/なに?/どのように?/なぜ?/根底にある価値観/登場人物のいろいろな側面を同時に機能させる/願望がうまく描ききれないとき
9 登場人物は変化し、成長しているか?
  なにが変化するのか?/どのように変化が起きるのか/変化するのはだれか?/変化の流れを構成する/一シーンで変化を遂げる/変化できない登場人物/潜在的な変化を見逃してしまう場合/なぜ登場人物の変化は珍しく、それを起こすのがむずかしいのか?
10 効果的なセリフをつくる
  力強いセリフ/セリフのリズム/セリフの多面性
11 映画的スタイルを確立する
  視点/登場人物を通してスタイルをつくる/ストーリーと登場人物を使ってスタイルをつくる/映像を使ってスタイルをつくる/ジャンルをつかってスタイルをつくる/複数のジャンルの組み合わせてスタイルをつくる
12 観客たちのどよめきを求めて
  観客の知的レベル/観客を見下したような姿勢/ターゲットとなる観客を知る/観客を教育する/観客の焦点をあわせる/観客を変化させる/では、どうしたらいいのか?/感覚を使って書く/観客とのつながり/観客が理解できるようにする/ストーリーの力

 

トーマス・フリードマン著, 伏見威蕃訳『遅刻してくれてありがとう-常識が通じない時代の生き方』(2016=2018)

 

 

「何かとてつもないこと」が起きている―社会のめまぐるしい変化を前に、多くの人がそう実感している。だが、飛躍的な変化が不連続に高速で起きると、理解が追いつかず、現実に打ちのめされた気分にもなる。何より私たちは、スマホ登場以来、ツイートしたり写真を撮ったりに忙しく、「考える」時間すら失っている。そう、いまこそ「思考のための一時停止」が必要だ。「平均的で普通な」人生を送ることが難しくなった「今」という時代を、どう解釈したらいいのか?変化によるダメージを最小限に抑え、革新的技術に対応するにはどうしたらいいのか?常識が崩壊する社会を生き延びるヒントを教えてくれる全米大ベストセラー。ニューヨーク・タイムズ紙ベストセラー第1位、ウォール・ストリート・ジャーナル紙が選ぶ「いま読むべき本」。

Part 1 熟考
1 遅刻してくれて、ありがとう

Part 2 加速
2 2007年にいったいなにが起きたのか?
3 ムーアの法則
4 スーパーノバ
5 市場
6 母なる自然

Part 3 イノベーティング
7 とにかく速すぎる
8 AIをIAに変える

Part 3 イノベ-ティング(承前)
9 制御対混沌
10 政治のメンターとしての母なる自然
11 サイバースペースに神はいるか?
12 いつの日もミネソタを探して
13 故郷にふたたび帰れる(それに帰るべきだ)

Part 4 根をおろす
14 ミネソタから世界へ、そして帰ってくる

<その後>それでも楽観主義者でいられる

 

伊坂幸太郎著『終末のフール』(2006→2009)

 

終末のフール (集英社文庫)

終末のフール (集英社文庫)

 

八年後に小惑星が衝突し、地球は滅亡する。そう予告されてから五年が過ぎた頃。当初は絶望からパニックに陥った世界も、いまや平穏な小康状態にある。仙台北部の団地「ヒルズタウン」の住民たちも同様だった。彼らは余命三年という時間の中で人生を見つめ直す。家族の再生、新しい生命への希望、過去の恩讐。はたして終末を前にした人間にとっての幸福とは?今日を生きることの意味を知る物語。

 

リー・マッキンタイア著, 大橋完太郎監訳, 居村匠, 大崎智史, 西橋卓也訳『ポストトゥルース』(2018=2020)

 

ポストトゥルース

ポストトゥルース

 

フェイクニュースオルタナティブファクト…、力によって事実が歪められる時代はいつから始まったのか。政治や社会への広範なリサーチと、人間の認知メカニズム、メディアの変容、ポストモダン思想など様々な角度からの考察で時代の核心に迫る。アメリカ「PBSニュースアワー」2018年ベストブックノミネート&世界六ヵ国翻訳のベストセラーの翻訳。

第1章 ポストトゥルースとは何か
第2章 科学の否定とポストトゥルース
第3章 認知バイアスのルーツ
第4章 伝統的メディアの凋落
第5章 ソーシャルメディアの台頭とフェイクニュースの問題
第6章 ポストトゥールスを導いたのはポストモダニズムか?
第7章 ポストトゥルースとの戦い

訳註

附論「解釈の不安とレトリックの誕生ーフランス・ポストモダニズムの北米展開と「ポストトゥルース」(大橋完太郎)」

訳者あとがき

参考文献

 

森真一「心理主義化社会のニヒリズム『社会学評論』2011年, 61巻, 4号, p.404-421

本文

本稿の目的は,心理主義化社会とニヒリズムの関係を明らかにすることである.この目的を果たすため,本稿はA. ギデンズの『モダニティと自己アイデンティティMSI)』(以下MSIと略す)を心理主義化論として読み,彼が提起する問題を出発点とする.MSIは,「心理学」がニヒリズム克服に寄与する可能性を示唆しながらも,もっぱらニヒリズムの再生産に寄与するものと捉える.ニヒリズムゆえに心理主義を一貫して批判してきた精神科医V. フランクルは,患者が「人生の意味」を発見できるように治療を行い,ニヒリズムの克服をめざす.フランクルの実存分析からは,「心理学」がニヒリズムの克服へと人々を向かわせていることが読みとれる.じつはギデンズも,抑圧された実存的問いが生のポリティクスとして回帰していることを示すことで,人々のニヒリズム克服行動を捉えようとしている.ギデンズやフランクルの著作からは,心理主義化社会において,「心理学」がニヒリズムを背景に隆盛し,ニヒリズムを再生産しているものの,他方でニヒリズム克服にも直接的・間接的に貢献しているように見受けられる.だが,ハイデガー存在論からすれば,実存分析や生のポリティクスのようなニヒリズム克服の努力こそ,ニヒリズムの本質を表している.心理主義化社会は,二重の意味でニヒリズムであることを明らかにしたい.