工藤庸子著『政治に口出しする女はお嫌いですか?-スタール夫人の言論vs. ナポレオンの独裁』(2018)

 

女性は参政権をもたず良家の子女は男性同伴でしか外出できなかった時代、「男性=公共圏=政治」「女性=親密圏=家庭」という近代的なジェンダー秩序に斬りこみ、両者をつなぐ「インターフェース=社会=ソシエテ」としてのサロンを主宰、政治家、貴族、軍人、知識人を交流させ、本を書き、自らの声を政治に反映させた女性たちを、スタール夫人を中心に描く。

はじめに─政治と女性とヨーロッパをめぐるいくつかの問題提起

ヨーロッパは「民主主義」のモデルだろうか?
 スタール夫人とアレント
 「民主主義」という語彙
 サロンは「公共圏」か?
 「ソシエテ」とは何か?
 「精神」としてのヨーロッパ
 女性の姓と名

第1幕 アンシャン・レジームのサロン─女たちの声
 ロンドンで国会を見学する十歳の少女
 英才教育と語学力
 「世論」と「公開性」の政治家ネッケル
 十八世紀のソシアビリテ─文化としての会話
 ジョフラン夫人からネッケル夫人へ

第2幕 革命の勃発と立憲王党派のサロン─政治化する会話
 世論と革命と失神について
 「フランスの精神」が輝いたとき
 アメリカ独立革命とパリのアメリカ人たち
 ガヴァヌア・モリスの『日記』─アメリカ人の見たフランス革命

第3幕 恐怖政治からボナパルト登場まで─「黄金のサロン」と「活動」としての会話
 恐怖政治とは何であったのか?
 政治と雄弁と「活動」について
 共に考える伴侶バンジャマン・コンスタン
 将軍ボナパルトをめぐる幻想と幻滅

第4幕 レマン湖の畔コペのサロン─政治に文学が挑むとき
 『文学論』はなぜ違反的なのか?
 『デルフィーヌ』─結婚と離婚と宗教をめぐる「オピニオン小説」
 『コリンヌまたはイタリア』─女性の自立を求めて
 「口語的」な文学と断裁された『ドイツ論』

第5幕 反ナポレオンとヨーロッパの精神
 『自殺論』と亡命の旅─ロシア、スウェーデン、イギリス
 奴隷貿易の廃止は最後の「活動」となるだろう
 「巨大なパトス」としての自由─アレントとスタール夫人の革命論
 スイスから世界を見る
 おわりに─スタール夫人の「会話」からアレントの「言論」へ

補遺:スタール夫人の言葉(翻訳)
 ①─公開書簡『パリに集結した君主たちへの呼びかけ─黒人奴隷貿易廃止のために』(一八一四年)
 ②─ウィルバーホース宛て私信(一八一四年十一月四日)
 ③─トマス・ジェファソン宛ての私信(一八一七年二月十二日)

 

若林幹夫, 立岩真也, 佐藤俊樹編著『社会が現れるとき』(2018)

 

社会が現れるとき

社会が現れるとき

 

社会がごく自然に存在してしまうことへの疑いと驚き.社会の現れはどのように経験され,思考され,人びとの行為や関係と結びついてゆくのか.そこに立ち止まることから始まる社会学的な問いは,多様な研究対象や分析方法へとひろがる.研究の最前線を示す新しい社会学論集.

はじめに――「社会が現れるとき」と「社会学(のようなもの)が現れるとき」

1章「都市」をあることにする(若林幹夫)
1 「都市」をめぐる三つの言葉
2 「都市」という概念
3 「魚」はどう存在するか(あるいは、存在しないか)
4 「都市」はどのように社会的か
5 「大都市」――大きさの社会性
6  同時代的問題としての「都市」
7 「都市」をあることにする

2章 空間の自由/空間の桎梏――都市空間への複数のリアリティ(西野淑美)
1  都市の空間と社会
2 「地域」という括りのレリヴァンス
3 「都市生活」が反転するとき
4 「地域移動」をめぐるリアリティ
5 「社会」の現れ方の非均質性

3章 近代日本における地位達成と地域の関係――戦前期生まれ著名人の中等教育歴が語るもの(中村牧子)
1  問い――「著名人」はどこで生まれたか
2  なぜ中等教育に注目するのか
3  中学校教育の地域間格差
4  エリート著名人を生み出す教育の仕組み
5  エリートの出自と活躍領域の分化
6  非エリート著名人を生み出す教育の仕組み
7  戦前期日本社会の「階層構造」のすがた

4章「商売の街」の形成と継承――(五十嵐 泰正)
1  はじめに――アメ横というアポリア
2  アメ横における「歴史の不在」
3 「アメ横商法」とエスニシティをめぐる視線の交錯
4 変わり続ける「商売の街」
5 「商売の街」を継ぐということ

5章 誰が自治体再編を決めるのか――「平成の大合併」における住民投票の再検討(砂原庸介
1  はじめに
2 「平成の大合併」における住民投票の位置づけ
3  住民投票の分析
4  おわりに

6章「素人」の笑いとはなにか――戦後日本社会とテレビが交わるところ(太田省一
1  はじめに
2  テレビ東京から見る戦後
3 「素人」という鉱脈
4 社会的存在としての「素人」
5  おわりに

7章 でも、社会学をしている――(立岩 真也)
1  それでも社会学をしていると思う1
2  そう思う2――社会の分かれ目について
3  社会的、はパスした
4  もっとよくできた話も結局パスした
5 代わりに
6  ポスト、もパスした
7 戻って、素朴唯物論は使えるかもしれない

8章 社会が溶ける?――日韓における少子高齢化の日常化とジレンマ(相馬直子)
1  少子高齢化の日常化
2  少子高齢化社会があらわれるとき――少子高齢化社会におけるケアをめぐる問い
3 日韓社会の対応
4 「よさ」のコンセンサスなきジレンマ
5  二重化される課題と新たなケアワークの発見――ダブルケアがあらわれる瞬間
6  おわりに

9章 境界としての「思想」――歴史社会学的試論(遠藤知巳)
1 「思想」――弱化と分散
2  思想研究は何をしているか
3 「社会思想」と社会学――隠れた相互依存
4 「思想」の言説史へ
5 一九世紀西欧(1)――「思想」の実体化と発展史観
6 一九世紀西欧(2)「真理」の分立と潜在的相対化
7  日本社会と「思想」

10章 想像のネットワーク――シベリア・極東ユダヤ人におけるアイデンティティアウトソーシング鶴見太郎
1  共同体のアナロジーを超えて
2  相補的ハイブリッド性
3  シベリアのシオニスト
4  ハルビンシオニズム
5  むすび

11章 映画に社会が現れるとき――「ステラ・ダラス』(一九三七)の言語ゲーム(中村 秀之)
1  映画の解釈という言語ゲーム
2  フェミニズム映画理論の「女性観客」
3  スタンリー・カヴェルの「普通の人間」
4  〈階級の顕な傷〉と映画の身体

12章 自己産出系のセマンティクス――あるいは沈黙論の新たな試み(佐藤俊樹
1  自己産出系論の公理系
2  理解社会学の二つのモデル
3  自己産出系の syntax との対応
4  制度の挙動をとらえる
5 「行為の意味を理解する」ことの定式化
6  ベイズ統計学の枠組み
7 行為の意味を推定する
8  解釈度を変数としてあつかう
9 自己産出系と解釈度
10  意味を「分布」としてあつかう
11 沈黙を測る

社会は現れる――一つの解題として(佐藤俊樹

 

中山康雄著『現代唯名論の構築-歴史の哲学への応用』(2009)

 

現代唯名論の構築―歴史の哲学への応用 (現代哲学への招待)

現代唯名論の構築―歴史の哲学への応用 (現代哲学への招待)

 

中世の普遍論争も踏まえ、存在、主体、意味、心といった近現代の哲学のテーマを総ざらい、メレオロジーなど最新の手法も駆使して「唯名論」というひとつの立場から再構築し、さらに物語と歴史という新たな地平に乗り出していく壮大な思考実験。近現代哲学の主要テーマとその論理的背景が簡潔に整理されて提示されるので、西洋哲学とは何かをざっと知りたい人にもオススメでき、同時に、その斬新な視点からの分析は、哲学の本質を追究したいディープな哲学ファンも唸らせる傑作。

第1部 唯名論的世界像

 世界と主体
 唯名論とメレオロジー
 唯名論存在論自然言語の意味論
 多元的言語論と物理主義
 事実の諸相
 心の哲学と物理主義
第2部 歴史叙述という語りの分析

 歴史叙述の位置付け
 時間と歴史
 歴史叙述の唯名論的分析

 

ジェームズ・C・スコット著, 清水展, 日下渉, 中溝和弥訳『実践 日々のアナキズム-世界に抗う土着の秩序の作り方』(2012=2017)

 

実践 日々のアナキズム――世界に抗う土着の秩序の作り方

実践 日々のアナキズム――世界に抗う土着の秩序の作り方

 

 アナキズムとは特別な政治運動でも革命でもなく,日々の暮らしの中から社会を変えていく実践である――東南アジアでのフィールドワークを通じて,国家の束縛から離れた社会のあり方を希求してきた政治学・人類学の泰斗スコットが,西欧文明社会で暮らす自らの経験からたどり着いた実践的アナキズムのエッセンスを,軽妙洒脱に説き明かす.

はじめに
 アナキストの懐疑の眼,もしくはアナキストのように眺めること
 組織の逆説
 社会科学の実践に対するアナキストの懐疑の眼
 一つ,もしくは二つのご注意

第一章 無秩序と「カリスマ」の利用
 断章1 アナキスト柔軟体操というスコットの法則
 断章2 不服従の重要性について
 断章3 さらに不服従について
 断章4 広告「リーダーがあなた方の導きに喜んで従うつもりで,支持者を求めています」

第二章 土着の秩序と公式の秩序
 断章5 土着と公式,二つの「知る」方法
 断章6 公的な知と管理の風景
 断章7 土着的なるものの柔靱な反発
 断章8 無秩序な都市の魅力
 断章9 整然さの裏の無秩序・混沌
 断章10 アナキスト不倶戴天の敵

第三章 人間の生産
 断章11 遊びと開放性
 断章12 なんて無知でばかげているんだ! 不確実性と適応性
 断章13 GHP :総人間生産量
 断章14 介護施設
 断章15 制度のなかの人生という病理
 断章16 穏やかな,直感に反した事例――赤信号の除去

第四章 プチ・ブルジョアジーへの万歳二唱
 断章17 中傷されてきた階級を紹介する
 断章18 軽蔑の病因論
 断章19 プチ・ブルジョアジーの夢――財産という魅惑
 断章20 プチ・ブルジョアジーのさほど小さくはない機能
 断章21 「無料の昼食」,プチ・ブルジョアジーの親切

第五章 政治のために
 断章22 討論と質――質の計量的測定に対する反論
 断章23 もしそうなったら……? 監査社会の夢想
 断章24 当てにならず,必然的に劣化する
 断章25 民主主義,業績,政治の終焉
 断章26 政治を弁護する

第六章 個別性と流動性
 断章27 小口の善意と同情
 断章28 個別性,流動性,そして偶発性を取り戻す
 断章29 歴史の虚偽をめぐる政治学


訳者あとがき・解題(清水 展)

 

ダイスケリチャード著『水槽-ダイスケリチャード メイキング&ワークス』(2019)

 

水槽 ダイスケリチャード メイキング&ワークス

水槽 ダイスケリチャード メイキング&ワークス

 

 ダイスケリチャードの描く、お茶目で脱力ポップな女の子たち。本書は描き下ろし・新作・未収録の最新作を集めたアートワークスと、リアルな作画メイキングを商業作品・個人作品ごとに5本収録。作家の内面に迫るQ&A、スタジオ公開、インタビュー、詳細な作品解説も満載です。圧倒的に女子から支持されるダイスケリチャードの、洗練された色彩に満ちた、気まぐれな女の子たちの生態をお楽しみください。

ギャラリー

お仕事作品メイキング
三月のパンタシア「ピンクレモネード」
三月のパンタシア 「ガールズブルー・ハッピーサッド」

個人作品メイキング
Q&A
ダイスケリチャード インタビュー
作品解説

 

山内宏泰著『写真を読む夜 13人の写真家たちの撮影哲学-プロフェッショナルのテクニックと視点』(2018)

 

「アート」の一領域として今や揺るぎない位置を占める「写真」。しかもその表現方法は刻々と変化し多様化を遂げ、未だ進化を続けている。現代の写真界をけん引する蜷川実花佐内正史、奥山由之、川島小鳥、石田真澄、高橋恭司ら12人が、作品を生み出す際に考えていること、表現の方法や判断基準など、自身の撮影哲学を対談形式で余さず語る。選び抜かれた言葉からは写真家個々人の視点が浮き彫りになるとともに、日本における現代写真の大きな潮流がくっきりとした輪郭をもって立ち上がってくる。豊富に収録した写真作品(約100点)と細やかな解説により、写真読解の入門書としても最適な一冊。北村写真機店(蔦屋代官山)で毎月行われている人気トークイベントの書籍化。

第一夜 高橋恭司
第二夜 佐内正史
第三夜 蜷川実花
第四夜 奥山由之
第五夜 川島小鳥
第六夜 高木こずえ
第七夜 青山裕企
第八夜 高橋宗正
第九夜 中井菜央
第十夜 小瀬村真美
第十一夜 山元彩香
十二夜 石田真澄
第十三夜(特別語り下ろし) 杉本博司

 

ジェームズ・H・ルービン著, 太田泰人訳『岩波 世界の美術 印象派』(2002)

 

 

印象派 (岩波世界の美術)

印象派 (岩波世界の美術)

 

街の通り,海岸,そして田園の静かな眺めを賛美し,室内の生活やカフェの人々を移ろいゆく時のなかに描きだし大きな衝撃を与えた印象派の画家たち.一見,自然のままと思える彼らの作品の背後にひそむ問題の数々をモデルニテ,旅行,市場,写真,ジェンダーなど最新の研究成果を駆使して明らかにする新しい印象派研究.

序 近代的快楽のスペクタクル
1 印象主義の名称 近代性と形式
2 主題としての芸術家 エドゥアール・マネのパリ
3 外光の下の自然主義 クロード・モネの余暇の風景画
4 場所、人、伝統 パジール、ピサロルノワール
5 舞踏術と科学 エドガー・ドガの描くパフォーマンス
6 女性・男性 モリゾ、カサット、カイユボット
7 対立か共犯か 印象主義と政治権力
8 再検討と刷新 新印象派からの批判
9 市場と創造性 連作とオリジナル作品
10 その後の展開 ポール・セザンヌモダニズム
11 他のメディア、他の場所 印象主義の遺産