イヴァン・イリイチ著,渡辺京二,渡辺梨佐訳『コンヴィヴィアリティのための道具』(1973=1989→2015)

 

ますます混迷の度を深め、閉塞感が高まる現代。現行の諸制度に対する不満がさまざまな形で噴出している。では、めざすべき新たな社会とはどういったものか―。イリイチはそれをコンヴィヴィアリティ(自立共生)という言葉に託した。人間の本来性を損なうことなく、他者や自然との関係性のなかでその自由を享受し、創造性を最大限発揮させていく社会、技術や制度に隷従するのではなく、人間にそれらを従わせる社会、それは決してユートピアではない。近年興隆する脱成長論の思想的源泉をなし、新たな社会を構想するためのヒントが凝縮された、不朽のマニフェスト

1 二つの分水嶺
2 自立共生的な再構築
3 多元的な均衡

 生物学的退化
 根元的独占
 計画化の過剰
 分極化
 廃用化
 欲求不満
4 回復

 科学の非神話化
 言葉の再発見
 法的手続きの回復
5 政治における逆倒

 神話と多数派
 崩壊から混沌へ
 危機の洞察
 急激な変化

39「産業主義的な生産性の正反対を明示するのに、私は自立共生(コンヴィヴィアリティ)という用語を選ぶ。私はその言葉に各人のあいだの自立的で創造的な交わりと、各人の環境との同様の交わりを意味させ、またこの言葉に、他人と人工的環境によって強いられた需要への各人の条件反射づけられた反応とは対照的な意味をもたせようと思う。私は自立共生とは、人間的な相互依存のうちに実現された個的自由であり、またそのようなものとして固有の倫理的価値をなすものであると考える。私の信じるところでは、いかなる社会においても、自立共生が一定の水準以下に落ち込むことにつれて、産業主義的生産性はどんなに増大したとしても、自身が社会成員間に生み出す欲求を有効にみたすことができなくなる」