松谷邦英「イリイチ再考一一コンヴィヴィアルな社会の展望」『社会科学ジャーナル』50, 2003

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53「ここで銘記すべきは、こうしたイリイチの所論を産業社会の全否定と混同し
ではならない、という点であろう。イリイチの所論は、あくまでも産業化の不
可逆性の認識の上に立った、社会構造の反転の思想である。すでに明らかなよ
うに、それは反制度(反道具)やネオ ラッダイトの思想ではない。その主眼
は、産業化の全否定ではなく、現存する産業システムの内側からそれを根源的
に再編してゆくことに置かれている。だからこそ、産業社会の批判的分析が行
われる一方で、同時に新しい社会の構築の展望が、無からの創造としてではな
く、あくまでも「道具の再編」として語られているのである。そこで目標とさ
れているのは、低設備でも過剰産業化でもなく、「脱産業的な効率を備えた世界
の場 、すなわち、「産業的生産様式が他の自律的生産様式を補足する」ような
社会の成熟にほかならない」