北田暁大, 神野真吾, 武田恵子編著『社会の芸術/芸術という社会−社会とアートの関係、その再創造に向けて』(2016)

社会の芸術/芸術という社会?社会とアートの関係、その再創造に向けて

社会の芸術/芸術という社会?社会とアートの関係、その再創造に向けて

法、ジェンダー、思想、教育etcの観点から研究者、アーティスト、キュレーターが社会←→アートのバージョンアップを図る。表現の自由・不自由/多文化主義/包摂と排除/搾取/公共性、その言説と実践をめぐって繰り広げられる、人文学と社会科学の“異種格闘”。

まえがき………北田暁大

第一章 表現の自由・不自由
 イントロダクション………北田暁大
 芸術表現の自由憲法上の「表現の自由」………志田陽子
 制度としての美術館、あるいは表現の「場」と媒介者………成原慧
 表現の自由と規制との間で考えるべきこと………神野真吾
第二章 多文化主義
 イントロダクション………北田暁大
 多文化主義なき多文化社会、日本………韓東賢
 表現の自由/表現が侵害する自由―アートはヘイトスピーチとどう向き合うべきか………明 戸隆浩
 多文化主義とアート―アイデンティティの表現をめぐって………神野真吾
第三章 包摂と排除
 イントロダクション………神野真吾
 欲望と正義―山の両側からトンネルを掘る………岸政彦
 ポルノ表現について考えるときに覚えておくべきただ一つのシンプルなこと(あるいはいくつものそれほどシンプルではない議論)………清水晶子
 誰が何から排除されているのか………神野真吾
 対談1 現代美術の表現から考える―方法・技術・戦略………高嶺格×チェ・キョンファ
第四章 搾取
 イントロダクション………北田暁大
 遍在化/空洞化する「搾取」と労働としてのアート―やりがい搾取論を越えて………仁平典宏
 アートにおいて交換される価値とは………神野真吾
 対談2 芸術生産の現場から考える―労働・キャリア・マネジメント………藤井光×吉澤弥生
第五章 公共性
 イントロダクション………北田暁大
 ハーバーマスアレントの理論から考える「公共性」………間庭大祐
 公共(性)とアート―「社会の芸術」の実現にあたって………神野真吾
 対談3 美術館の公共性から考える―コレクション・展示・教育………蔵屋美香×神野真吾
 ソーシャリー・エンゲイジド・アートとしての九〇年代京都における社会/芸術運動と『S/N』………竹田恵子
アートの開かれた王室問題―あとがきにかえて………神野真吾

松本修著『全国アホ・バカ分布考ーはるかなる言葉の旅路』(1993→1996)

全国アホ・バカ分布考―はるかなる言葉の旅路 (新潮文庫)

全国アホ・バカ分布考―はるかなる言葉の旅路 (新潮文庫)

大阪はアホ。東京はバカ。境界線はどこ?人気TV番組に寄せられた小さな疑問が全ての発端だった。調査を経るうち、境界という問題を越え、全国のアホ・バカ表現の分布調査という壮大な試みへと発展。各市町村へのローラー作戦、古辞書類の渉猟、そして思索。ホンズナス、ホウケ、ダラ、ダボ…。それらの分布は一体何を意味するのか。知的興奮に満ちた傑作ノンフィクション。

第一章 015
「アホ」と「バカ」の境界線
全国アホ・バカ分布図の完成に向けて
第二章 057
「バカ」は古く「アホ」はいちばん新しい
恐るべき多重の同心円
古典に潜むアホ・バカ表現
第三章 141
「フリムシ」は琉球の愛の言葉
「ホンジナシ」は、本地忘れず
第四章 193
「アヤカリ」たいほどの果報者
「ハンカクサイ」は船に乗った
言葉遊びの玉手箱
分布図が語る「話し言葉」の変遷史
第五章 247
「バカ」は「バカ」のみにて「バカ」にあらず
新村出柳田國男の語源論争
周圏分布の成立
学会で発表する
第六章 303
「アホンダラ」と近世上方
江戸っ子の「バカ」と「ベラボウ」
「アホウ」と「バカ」の一騎打ち
第七章 371
君見ずや「バカ」の宅
「アハウ」の謎
「阿呆」と「馬家」の来た道
エピローグ 465
方言と民俗のゆくえ

あとがき 485
アホ・バカ方言全国語彙一覧 495
主要参考文献 548

解説〔俵万智〕 557
文庫化を祝して〔岡部まり〕 563
事項索引・語彙索引 572-582

麻生博之, 城戸淳編著『哲学の問題群ーもういちど考えてみること』(2006)

哲学の問題群―もういちど考えてみること

哲学の問題群―もういちど考えてみること

生きることや幸福、心・自由、知識・真理、存在・時間、善悪、社会・歴史、愛・性、死などのテーマを読者の目線でやさしく語る。はじめての人でも自由自在に学べる初歩の“哲学”。「主な哲学者紹介」「読書案内」を併載。

はじめに――哲学的に考えるということ――
I 人間とその生
1 生きる―生きることの意味とはなにか―
なんのための生きるのか/アリストテレスの「最高善」/「活動」としての行為
/ ニーチェ永遠回帰の思想 / 宇宙論的な苦笑

2  心 ―「心」とはいったいなんだろうか―
「心とは……である」と言い当てられるか/プラトンの霊魂説/
アリストテレスの『魂について』/デカルトの転換(魂から精神へ)/
カントによるデカルト批判

3 心と身体―心身はどんな関係にあるのか―
心身問題/二元論(デカルトの相互作用説)/二元論の困難/二元論と一元論/
唯物論的な考え方(心脳同一説と機能主義)/心の主観性/関係としての心

II 私と他者
4 私―自己意識という迷宮―
私をめぐるいくつかの問い/「考えるもの」としての私/私の捉えがたさ/
「意識そのもの」としての私/「他者の他者」としての私

5 アイデンティティ―昨日の私は私なのか―
私の変化と同一性/同一性と記憶/忘却と循環/身体と他者/積み残されている問題

6 他者の心―他人の気持ちや思いがわかるとはどのようなことか―
他我問題/類推説/感情移入説/心の私秘性という問題/行動主義/直接知覚説/
「他人の」心のありようが分かるということ

III 自由と行為
7 自 由―決定論と自由は両立するのか―
全知全能の神とラプラスの魔/意志の最初の哲学者、アウグスティヌス
若きカントの自発性の概念/ホッブズの意志実現説/ライプニッツの可能世界論/
カントの第3アンチノミー/経験的観点と叡智的観点の両立

8 行 為―行為と出来事はどう違うのか―
「する」と「起きる」/プラトン原因論/意志原因説の問題点/
アンスコムの「観察にもとづかない知識」/理由と原因/行為の絵と出来事の絵の違い

9 責 任―行為の責任を問うということ―
他者の自由へ/アリストテレスの責任論/性格の形成過程/カントの「人格」の概念/
他なる人格と「理性の事実」/ストローソンの責任論/日常世界と哲学

IV 知識と言語
10 知る―なにかを知るとはどういうことだろうか―
マトリックス』仮説/いもづる式懐疑/伝統的知性観/理性と経験/観念論と実在論
方法的懐疑/パトナムによる解決策

11 真 理―なにかが真であるとはどういうことだろうか―
うそつきのパラドクス/伝統的真理概念/対応説から観念論へ/対応説から反実在論へ/
うそつきふたたび/クリプキによる解決策

12 意 味―なにかを意味するとはどういうことだろうか―
「+」記号のパラドクス/意味は心のなかに/双子地球/意味を心の外に/
懐疑的結論と懐疑的解決/孤立した個人と共同体

V 存在と世界
13 存在と無―「ある」とはどういうことか―
なぜなにかがあるのか/世界があるということ/存在論的差異存在と無

14 個と普遍―なにがあるのか―
なにがあるのか/プラトンイデアアリストテレスの実体/実在論唯名論
存在するとは変項の値になること

15 世界の実在―身のまわりの世界は本当にあるのか―
意識のベール/観念とものそのもの/存在するとは知覚されること/疑いをまぬがれる世界

16 時 間―時間はどこにあるのか―
時間はどこにあるのか/アウグスティヌスの三つの時間/フッサールの時間意識/
数えられる時間/時計の時間と絶対時間

VI 善悪と価値
17 よ い―善/悪の根拠はなにか―
道徳という現象/道徳の指令性/道徳の客観性/道徳の本質的な特徴/
道徳的判断と真偽/道徳的性質はありうるか/ヒュームの懐疑(1)/
ヒュームの懐疑(2)/問いとしての道徳

18 相対主義―価値のちがいは絶対的か―
素朴な道徳相対主義相対主義批判/文化のちがいと道徳のちがい/
洗練された道徳相対主義/暗黙の合意/すべては本当に「相対的」なのか

19 義務か快苦か―行為の動機と結果をめぐって―
義務論/カントの善い意思と義務/定言命法/義務論とわれわれの常識/
功利主義功利主義とわれわれの常識

VII 社会と人間
20 ともに生きる―社会はどのように成り立つのか―
どこに社会はあるのか/「個人が先か。社会が先か」/アリストテレスの社会観/
社会契約論/ふたたび「個人が先か。社会が先か」

21 所 有―なにが私のものなのか―
所有による世界の色分け/所有の定義/ロックの労働所有論/労働の混入は目印になりうるか/
私の身体は私の所有物か/所有と他者

22  性 ―性的差異は「自然」なものか―
男性も出産できたら/セックス/ジェンダー/セクシュアリティ本質主義
文化的差異としてのセックス/哲学の古典の沈黙

23 歴 史―歴史があるとはどういうことか
歴史のイメージ/古典的歴史哲学と歴史の物語論/想起過去説/物語文/
歴史は改訂をまぬがれない/歴史の物語論歴史修正主義

VIII 苦悩と幸福
24  死 ―死というものをどのように考えるべきだろうか―
「死」は人間の敗北か/『ガリヴァー旅行記』の思考実験/人間の条件としての「死」/
生の「事実」/事実的な生における「死」の現在/「死」の意味

25  愛 ―誰かを愛するとはどのようなことだろう―
愛することを学ぶ/一体化への渇望/一体化の挫折/欠如への欲求/愛の苦悩と情熱/
欠如の愛を超えて/現実の相手に対する悦び/ともによく生きるための愛/異質な他者への愛/
一生の課題としての愛

26 幸 福―生の充足をめぐって―
すべての人は幸福を求める/幸福の不可能性/幸福の可能性を求めて/<よく生きること>と幸福/
自己実現としての幸福/現在の活動としての幸福

木庭顕著『笑うケースメソッドⅡ 現代日本公法の基礎を問う』(2017)

[笑うケースメソッドII]現代日本公法の基礎を問う

[笑うケースメソッドII]現代日本公法の基礎を問う

公法の根底にある、近代ヨーロッパ概念である政治システムとデモクラシー。そしてそれらが全面的にギリシャ・ローマの観念体系に負うことを踏まえ、人権概念へと迫る。東大法科大学院選択科目「公法・刑事法の古典的基礎」公法部分の[笑うケースメソッド]。憲法行政法の授業で見知った有名判例が、目からウロコの姿となって現れる。

予備的討論―夜叉ヶ池の龍神、その正体は?
政治制度の構築―背景の色を変えれば違って見える
言論・表現の自由―天上界にもミニマ・フューシカ
政教分離―天地が岐れる時
個人の尊厳―デモクラシーの礎石
精神の自由―文化の極点
生存権―命あっての物種
公共空間内の物的規律―商売も哲学のうち
公共空間の領域展開―市民社会の運命はあなたに懸かっているのですよ
領域上の擬制的公共空間―横一列!
直接的領域規律―環境は公共前公共
デモクラシーの審級―江戸の敵は長崎で討つ
財政―あげたんじゃないよ、あずけただけなんだから

12 福岡『国家・教会・自由』ホッブズスピノザ

国家・教会・自由―スピノザとホッブズの旧約テクスト解釈を巡る対抗

国家・教会・自由―スピノザとホッブズの旧約テクスト解釈を巡る対抗

16 長谷部「リベラル・デモクラシーの基底にあるもの」『憲法学のフロンティア』
憲法学のフロンティア

憲法学のフロンティア

16 樋口『憲法Ⅰ』「日本国憲法がいかなる政治システム概念の文脈に立つか」
憲法1(現代法律学全集 2)

憲法1(現代法律学全集 2)

21 フィンリー『オデュッセウスの世界』
オデュッセウスの世界 (岩波文庫)

オデュッセウスの世界 (岩波文庫)

22「政治的決定はまったくもって自由のためだけになされる。権力や不透明の解体のためにのみなされる」「実力を独占し強制をおこないうる近代国家と対照的に、実力装置をいっさい有しません」
30 テオドール・モムゼン「ローマの政治システムを法学的に捉える、その息を呑む厳密さは、依然としてテオドール・モムゼンの独壇場であり」「「彼の著作を字引きのように参照せよ」ということになる」
ローマ史(上) 共和政の成立と地中海諸民族の闘争

ローマ史(上) 共和政の成立と地中海諸民族の闘争

39「19〜20世紀の粗雑なデモクラシー理解を克服するためには、こうしてまず判断手続きの二段構えという側面を発達させる、つまり占有原理を借りることが有用だったのではないか。とくにデモクラシーの判断のなかで中枢的な位置を占める、孤立した個人の自由、つまり人権のためには、占有と人身保護の古来密接な関係が決定的に重要なのではないか」
52「つまりテリトリーの上の特定の事実が先験的な意義を有するように組み直したのです。というもの、政治を形成するためには下に隙間を作らせずにテリトリーに足を付けなければならない。隙間があるとそこに権力が発生し、政治システムはボスの談合組織ないし利益集団の調整組織と変わらなくなるからです」
55「ギリシャ・ローマの事物を貫く基礎的コードは都市と領域の二元的構成で、自由な言語のみが支配する政治的空間たる都市と、これがしっかりと根を下ろすテリトリー、政治システム形成後、都市との対比で領域と呼ばれる空間ですね、これが厳密に区別される」
69 小島『制度と自由ーモーリス・オーリウによる修道会教育規制法律批判をめぐって』72 宮沢『憲法Ⅱ新版』
憲法〈2〉 (1971年) (法律学全集〈4〉)

憲法〈2〉 (1971年) (法律学全集〈4〉)

86 芦部『憲法学Ⅱ』
憲法学 2 人権総論

憲法学 2 人権総論

M・I・フィンリー著, 柴田平三郎著『民主主義−古代と現代』(1985=1991→2007)

民主主義―古代と現代 (講談社学術文庫)

民主主義―古代と現代 (講談社学術文庫)

ギリシアアテナイ民主制の実態を分析する理想の政治形態とはどのとうなものか。現代政治のキーワード、民主主義をギリシアに遡って精査し、アテナイ民主政治の実態と本質を功罪両面から的確に分析する。

第1章 指導者と追随者
第2章 アテナイデマゴーグたち
第3章 民主主義、合意および国益
第4章 ソクラテスと彼以後
第5章 古典古代における検閲
訳者あとがき−民主主義とエリート理論の間
解説−著者モーゼス・フィンリーについて 木庭顕

小坂井敏晶著『社会心理学講義−〈閉ざされた社会〉と〈開かれた社会〉』(2013)

社会心理学講義:〈閉ざされた社会〉と〈開かれた社会〉 (筑摩選書)

社会心理学講義:〈閉ざされた社会〉と〈開かれた社会〉 (筑摩選書)

社会心理学とはどのような学問なのか。本書では、社会を支える「同一性と変化」の原理を軸にこの学の発想と意義を伝える。人間理解への示唆に満ちた渾身の講義。

第1部 社会心理学の認識論
 科学の考え方
 人格論の誤謬
 主体再考
 心理現象の社会性
第2部 社会システム維持のパラドクス
 心理学のジレンマ
 認知不協和理論の人間像
 認知不協和理論の射程
 自由と支配
第3部 変化の謎
 影響理論の歴史
 少数派の力
 変化の認識論
第4部 社会心理学と時間
 同一性と変化の矛盾
 日本の西洋化
 時間と社会

246「フェスティンガーも含め、1960年台までに提唱されてきた理論はすべて、人間は多数派に影響されるという前提に立ちます。人間の独立性を信じ、他人の意見に惑わされることなく、客観的に正しい答えが必ず選ばれると考えたアッシュだけが例外です。情報に関して影響源に依存するから、周囲との軋轢を避けるために自らの意見を曲げる。こう信じられていました。影響源に依存するという意味で、これらの理論は従属モデルと呼ばれます。また、社会秩序の維持を説明するという意味で機能主義モデルとも称されます」
247「しかし1970年代に入るとフランスのセルジュ・モスコヴィッシが、このような常識的発想に異を唱えます」
264「社会が閉じた系ならば、そこに発生する意見・価値観の成否はシステム内部の論理だけで決められます。規範に反する少数派の考えは否定され、多数派に吸収される。これが機能主義モデルです。それに対し発生モデルは開かれた系として社会を捉えます。システムの論理だけでは正否を決定されない撹乱要素がシステム内に必ず発生する。撹乱要素は社会の既存規範に吸収されず、社会の構造を変革してゆく。これがモスコヴィッシ理論の哲学です」