木村邦博「「問い」を主題とした学説研究の重要性 ―科学としての社会学と歴史学としての社会学史の発展のために―」『社会学年報』2009年, 38巻, p.31-41

本文

本稿の目的は,科学としての社会学歴史学科学史)としての社会学史との双方にとって,どのような「学説研究」が実り多いものと考えられるかについて,論じることである.より具体的には,具体的な社会現象に対する「問い」を主題とした学説研究を実践することこそが,社会学社会学史それぞれの分野における研究の発展を促すものであることを主張する.まず,科学としての社会学歴史学科学史)としての社会学史とを峻別する必要があることを述べるだけでなく,このふたつの違いをできるだけ明快な形で定式化する.その上で,社会現象の科学的探求としての社会学がどのような目標と方法をもつべきものであるかを,具体例を挙げつつ論じる.さらに,相対的剥奪に関するレイモン・ブードンの研究を模範例として取り上げ,そこにおいてブードンがとった研究戦略を検討することで,「問い」を主題とした学説研究の重要性を示すことにしたい.最後に,「問い」とそれに対応した仮説を主題とした学説研究が,学者(学派)・言説(主張)・概念・メタ理論を主題にした場合と比較して,科学としての社会学においては先行研究のレビューとして有効かつ不可欠なものであると同時に,社会学史の分野でも社会学的な営みを魅力的なものとして描くことにつながるものであると主張する.

31「第二に,他方で,社会現象に対する科学的探求をある意味で最も牽引する役目を担うべき数理社会学・計量社会学の分野では,先行研究 をきちんと踏まえていないために,言いかえると着実な「学説研究」にもとづいていないために, たとえば単なる表現の新しさや用いる手法の新し さを研究自体の「革新性」と勘違いするような傾向が見られる」!

木村邦博,2006,『日常生活のクリティカル・シンキング ―社会学的アプローチ―』河出書房新社.

Collins, R., 1994, Four Sociological Traditions, New York: Oxford University Press.(=1997,友枝敏雄訳者代表 『ランドル・コリンズが語る社会学の歴史』有斐閣.)