大尾侑子「ファン・アイデンティティの宣言に伴うジレンマと処理パターン—ヴィジュアル系ファンへの質的調査をもとに—」『ソシオロゴス』2016年, 40号

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本稿は、ファンが自らのファン・アイデンティティを宣言する際に生じるジレンマと、その処理に関 する内在的ロジックを明らかにする試みである。近年、欧米圏のファン研究を中心として、「集団として のファン」から、「ファン個人」のファン・アイデンティティへ着目する動きがある。しかし、これらは「集団 / 個人としてのファン・アイデンティティ」を無批判に同一視するあまり、両者の間で当事者が感じるジレンマや、その処理についての有益な議論を欠く。そこで本稿はヴィジュアル系バンドのファン を対象にインタビュー調査を行い、当事者がいかにジレンマを感じ、処理しているのかを検討した。結果、 ジレンマ回避には、単なるファンであることの対他者的な「隠蔽」のみならず、「対抗的アイデンティティ の呈示」や「内集団内他者化」、あるいは特定のファン集団をあらわす呼称の内面化を否定し、「個人と してのファン」としての側面を強調するなど、複数の戦略的な処理類型が導き出された。

113「「従来の研究者たちは、ファンに対する、悪い印象・固定観念を変革したいと考える傾向がある」ため、「マイナスイメー ジを増長させる危険のあるテーマを、研究対象からあえて、外す」(龐 2010: 166)傾向があった。」

河津孝宏 , 2009,『彼女たちの「Sex And The City」』せりか書房 .

宮本直美 , 2011,『宝塚ファンの社会学 – スターは劇場の外で作られる』青弓社 .

大尾侑子 , 鈴木麻記 , 2015,「近年のオーディエンス研究における「アイデンティティ」の位相:解釈学的図式に対する批判的視覚の可能性と限界」東京大学大学院情報学環紀要『情報学研究』(89)51-65.【本文

吉光正絵 , 2013,「ポピュラー音楽と女性ファン」『長崎県立大学国際情報学部件研究紀要』14: 265-76.【本文

難波功士 , 2006,「“-er” の系譜:サブカルチュラル・アイデンティティの現在」『社会学部紀要』100: 181-9.【本文

小泉恭子 , 2007,『音楽をまとう若者』勁草書房 .

音楽をまとう若者

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  • 作者:小泉恭子
  • 発売日: 2016/06/01
  • メディア: オンデマンド (ペーパーバック)