A.D.チャンドラー著,丸山恵也訳『大企業の誕生-アメリカ経営史』(1978=1986→2021)

 

現代社会では、多国籍化した大企業が、経済ばかりか政治にまで強い影響力を及ぼしている。なぜ私企業が国家をしのぐほどの力を持ちえたのか。その問いにアメリカ企業の歴史を紐解き、「垂直統合による複数事業化」「職能別部門制組織の構築」「専任俸給経営者の投入による利潤の極大化」など、企業発展の論理面から答えたのがチャンドラー経営史学だ。そして最終的には、神の見えざる手ではなく、多国籍企業経営者の見える手に、秩序がゆだねられるのだという。本書は大部の主著、『経営者の時代』のエッセンシャル版。この一冊で企業が発展する要素と現代資本主義経済の形成過程をつかむことができる。

序章 近代企業の機能と構造
第1章 伝統的企業の専門化―一七九〇年代から一八四〇年代(市場拡大と企業の専門化
近代的管理の先駆)
第2章 近代企業の生成と展開―一八四〇年代から第一次世界大戦まで(鉄道―この国最初のビッグ・ビジネス
大量消費市場の生成
大量生産の到来
近代産業企業の発生
組織の形成)
第3章 第一次世界大戦以後の近代企業(生産と流通における企業の進歩
金融業、運輸業、通信業における企業の発展
第二次世界大戦後の近代企業発展方向)
第4章 結び

182「さきにもふれたように、チャンドラー教授の「ビジブル・ハンド」論はその基礎に、「内部組織の経済学」派の企業制度論が存在する。ここでは市場と企業が同一の経済機能を担う制度として、その代替性が教授の理論的出発点におかれている。しかし、この市場と企業の同一性という認識が実は問題なのである。企業のマネジメントは個別経済としての企業の意識性、計画性の実現であるのに対して、市場は全体経済としての無意識性、無政府性の発現であって、この両者はあきらかに次元の異なるものであり、したがってそれぞれがはたす機能も大きく異なるものであることはいうまでもない。この企業と市場は個別と全体という関係からいって相互依存的であるが、しかし、同時に相互対立的な存在でもある。すなわち、企業のマネジメントが計画的で、効率的になればなるほど、社会全体の経済過程としての市場は非計画的で、非効率的なものとなってあらわれてくるという固有の特質をもっているのである」