金券ショップってどうなってるの?

 以前から疑問に思っていたのだが、金券ショップは一体どういう仕組みになっているのだろうか?JRや高速バスのチケットはもちろんのこと、映画のチケットまでほとんど常時、残券があり、定価、もしくはそれより幾分安価で手に入れることができる。あらためて言うまでもなく、金券ショップを訪れた客はチケットを購入するだけではなく、不要になったチケットを買い取ってくれるので、私たちは急遽予定が入って使用できなくなったチケットを売却することができる(あるいはカラ出張で得た金券を売却して懐に入れるなど)。金券ショップはこれを定価より安く買い取り、上乗せした価格で別の客に売った差額をみずからの利益とすることができる。これは自明だ。

 しかしわたしの疑問はそこではない。顧客と店の間の売買だけで金券ショップの商売が成立すると考えるには、あまりにもチケットが安定供給されすぎているのだ。チケットを売買するのが個人であれ、法人であれ、日常的に遠距離移動を必要とする「お得意様」をどれだけ獲得したところで、「予定外の出来事」をチケット供給の条件としているようでは、需要面では安定していても供給面はつねに不安定ということになる。金券ショップはどのような手段でチケットを安定的に仕入れ、つねに在庫を確保しているのだろうか?

 ひとつの仮説として考えられるのが、現金入手手段としての金券ショップの存在である。今でこそクレジットカード取引できる金券ショップは減少したらしいが、90年代前半ではクレジットカード決済で金券を購入することができた。このシステムを利用して詐欺が横行したことがある。いわゆるチャリンカー詐欺である。チャリンカーとは、金券や物品の購入と転売を繰り返して自転車操業的にやりくりすることで資金を調達する手法である。金券の場合、まずクレジットカードを使用して金券ショップAにて金券を購入する。次に金券ショップBに赴き、そのチケットを売却する。これによって現金が手元に入る。クレジットカードの引き落としは数日先なので、その日までに給料など債務を返済するお金を確保し、これを支払うというその場しのぎの手段である。

 この行為が一度で終われば傷も浅い。しかしクレジットカードの返済金額が足りない場合、様々なところで次々とクレジットカードをつくり、無限ループで債務を補う自転車操業に陥ってしまうことがカード破産の一形態として社会問題化した。チャリンカー詐欺はこのシステムを確信犯的に利用し、借金を踏み倒すことを前提として金券や商品を買い漁り、現金に交換した時点で行方をくらませ、債務を履行しない犯罪の手口である。こうしたチャリンカーの是非はさておき、この行為がチケット需給バランスに悩むショップ間の金券の流通に一役買っていた可能性は十分に考えられる。

 しかしこれではまだ不安定だ。金銭の困っている人の登場を金券ショップが手をこまねいて待っているようでは、安定供給には程遠いだろう。次の仮説はこうだ。金券ショップ間で同業組合のようなものが組織されており、所属する金券ショップの間でチケットを融通しているのではないか?先に挙げた、急用、カラ出張、チャリンカーの存在だけでは金券供給が売主の事情に左右されてしまい安定しない。そこでこのような仕組みを導入する。チケットが供給不足の店と供給過剰の店の間で契約を交わし、組合を仲介して両者で定められた数を融通するのだ。もちろんこの手法では、金券を融通する店が一方的に損失を被ることになってしまい不公平だ。そこで損失を緩和するために、次のような規則を定める。融通する金券の数は、融通される店の金券保有数が、1店舗あたりの平均保有数からX%(たとえば60%)に至るまでを限度とする。さらに融通される側はその数を店頭における購入価格より安い価格で購入する。このように、特定の店が過剰な負担を背負わない程度に、損益を分け合うことでチケットの安定供給を計っているのではないか。

 これは経済学における保険の原理と同じである。保険は、契約者(加入者)が保険料を出し合い、事故が発生したとき発生した損害を埋め合わせるため、保険金を給付する制度である。特定の人や法人がどの程度の確率で事故に遭遇するかは定かでない。しかし、統計データから、一定期間にある保険事故がほぼ確実に発生する確率は算出することができる。この確率をもとにして、保険者が支払うべき金額を算出し、保険料として契約者から徴収する。この保険料を損失を被った契約者に再分配することでリスクをシェアして、全体の効用を増加することができるのだ。今回の金券ショップのケースにおいては、加入する金券ショップが契約者、金券ショップ組合が保険会社に相当する。もちろん、店が不足した金券ショップの購入金を「保険金」として組合に預けてとは考えにくい。さらには取引を仲介する組合員が存在するかどうかも疑わしい。つまり保険事業は加入した店舗の持ち回りで運営されている可能性が高い。加入する店舗が流通するチケットの枚数を定期的に組合に報告し、知らせを受けた担当者が供給過剰の店と供給不足の店の間の金券と支払うお金を決定して、交換を仲介する。このような仕組みが考えられるのではないだろうか。

 もちろん、わたしは金券ショップ業界に関する情報をなんら知らないし、今回の仮説はふとした疑問から想像した内容に過ぎない。実態がどうなっているか知っている方がいれば教えを請いたいところだ。