佐藤卓己著『テレビ的教養-一億総博知化への系譜』(2008→2019)

 

テレビは本当に「一億総白痴化」をもたらしたのか? それとも,「一億総博知化」をもたらし得るものなのか――.戦前・戦後にまたがる「放送教育運動」の軌跡を通して,従来の娯楽文化論/報道論ではなく,〈教養のメディア〉としてのテレビ史を論じ,その可能性を浮かび上がらせた画期的著作.

序 章 「テレビ的教養」を求めて
 教育的テレビ観と「教養のテレビ」/「一億総白痴化」と「一億総中流意識」/教育=教養+選抜


第一章 国民教化メディアの一九二五年体制

1 放送メディアの連続性
 「日本の現代」を映すテレビ/視聴覚教育か、聴視覚教育か/アマチュア無線ナショナリズム/教化宣伝のラジオ放送
2 学校放送と戦時教育の革新
 「放送教育の父」西本三十二/一九三五年全国学校放送開始/学校放送の「役に立った戦争」
3 戦争民主主義と占領民主主義
 教育民主化プロパガンダ/軍隊教育―社会教育―放送教育/広報教育学と日本放送教育協会


第二章 テレビの戦後民主主義

1 軍事兵器から家庭電化へ
 テレビの一九四〇年体制/国産技術の巻き返し/アメリカの「視覚爆弾」
2 一億総白痴化と教育テレビの誕生
 「六メガ」娯楽と「七メガ」教育の日米決戦/学校現場からの放送文化批判/水野正次の革新と抵抗/「テレビこじき」のプロレスごっこ一億総白痴化論の系譜/《何でもやりまショー》という植民地的民族性/大宅壮一の文化的植民地論
3 日本的教育テレビ体制の成立
 電波争奪戦と一億総博知化運動/日本教育テレビ(NET)の成立/白根孝之のテレビ教育国家/田中角栄スプートニクの衝撃/世界に冠たる教育テレビ体制/科学技術専門教育局の「メガTONネット」


第三章 一億総中流意識の製造機

1 テレビっ子の教室
 電波に僻地なし?/静かな教育革命/テレビっ子の階級性/「壁のない教室」への抵抗/教育における「メディア論の貧困」/テレビ大国の「期待される人間像」/教室の近代化と日本列島改造
2 教室テレビと放送通信教育
 テレビが教室にやって来た/西本・山下論争のメディア論/テレビの「バナナ化」/《セサミストリート》のテレビ的手法
3 「入試のない大学」の主婦たち
 勤労青年の教育機会/有閑主婦の教養趣味/民放教育専門局の消滅/「テレビ的教養観」調査/社会教育の終焉


第四章 テレビ教育国家の黄昏

1 ファミコン世代のテレビ離れ
 テレビ文化の空虚な明るさ/「全員集合」文化の終わり/ファミコンの「小さな物語」/〇歳児からの学歴無用論
2 ビデオの普及と公共性の崩壊
 ビデオ革命の衝撃/「ナマ・丸ごと・継続」利用の破綻/新自由主義規制緩和と公共性の動揺/映画教育の消滅と放送教育の限界/コンピュータ時代の情報教育/ハイビジョン教育の狂騒
3 生涯学習社会の自己責任メディア
 生涯学習の台頭と学校放送の空洞化/「ゆとり教育」の逆説/「放送教育の世紀」の閉幕


終 章 「テレビ的教養」の可能性
 文化細分化のテレビ論/社会関係資本の衰弱/情報弱者メディア・リテラシー/教養のセイフティ・ネット/「学力崩壊」と「一億総白痴化リバイバル/エンター・エデュケーションの公共性/一億総博知化の夢へ


引用文献
あとがき
岩波現代文庫版あとがき――「テレビの未来へ進むためのバックミラー」
解説 テレビに何を期待できるか……………藤竹 暁
人名索引

 

舞城王太郎著『山ん中の獅見朋成雄』(2003→2005)

 

山ん中の獅見朋成雄 (講談社文庫)

山ん中の獅見朋成雄 (講談社文庫)

 

中学生の獅見朋成雄はオリンピックを目指せるほどの駿足だった。だが、肩から背中にかけて鬣のような毛が生えていた成雄は世間の注目を嫌い、より人間的であることを目指して一人の書家に弟子入りをする。人里離れた山奥で連日墨を磨り続けるうちに、次第に日常を逸脱していく、成雄の青春、ライドオン。

 

今野敏著『棲月―隠蔽捜査7―』(2018)

 

棲月―隠蔽捜査7― (新潮文庫)

棲月―隠蔽捜査7― (新潮文庫)

  • 作者:今野 敏
  • 発売日: 2020/07/29
  • メディア: 文庫
 

鉄道のシステムがダウン。都市銀行も同様の状況に陥る。社会インフラを揺るがす事態に事件の影を感じた竜崎は、独断で署員を動かした。続いて、非行少年の暴行殺害事件が発生する。二件の解決のために指揮を執る中、同期の伊丹刑事部長から自身の異動の噂があると聞いた彼の心は揺れ動く。見え隠れする謎めいた“敵”。組織内部の軋轢。警視庁第二方面大森署署長、竜崎伸也、最後の事件。 

 

誉田哲也著『ストロベリーナイト』(2006→2008)

 

溜め池近くの植え込みから、ビニールシートに包まれた男の惨殺死体が発見された。警視庁捜査一課の警部補・姫川玲子は、これが単独の殺人事件で終わらないことに気づく。捜査で浮上した謎の言葉「ストロベリーナイト」が意味するものは?クセ者揃いの刑事たちとともに悪戦苦闘の末、辿り着いたのは、あまりにも衝撃的な事実だった。人気シリーズ、待望の文庫化始動。

 

村上龍著『どこにでもある場所とどこにもいないわたし』(2003)

 

どこにでもある場所とどこにもいない私

どこにでもある場所とどこにもいない私

  • 作者:村上 龍
  • 発売日: 2003/04/24
  • メディア: 単行本
 

空港ロビー、居酒屋、コンビニ、公園、駅の自動改札……。日常の一瞬に、ふと去来する心の揺らぎ、意識の流れを描く八篇の本格短篇

 

佐藤友哉著『フリッカー式-鏡公彦にうってつけの殺人』(2001)

 

妹が死んだ。自殺だった、と僕のイカれた家族は云うが。そして現れた男。手にはビデオ。内容は妹のレイプ中継。渡されたのはレイプ魔どもの愛娘達の克明すぎる行動表。こうされちゃあ、する事は一つ。これが自然な思考だね。そして僕は、少女達の捕獲を開始した。その果てに…、こんな馬鹿げた世界が用意されているなんて知りもせず。

 

今井貴子「成熟社会への掣肘 ―イギリスのEU離脱をめぐる政治社会」『年報政治学』2019年, 70巻, 2号, p. 2_58-2_83

本文

欧州連合 (EU) からの離脱を決した2016年国民投票後、イギリスは妥協を排除するような 「情動的分極化」 に陥っているといわれている。それは階級的亀裂や排外主義は後景に退くとさえ論じられた 「成熟社会」 への劇的な掣肘であったといえよう。本稿は、イギリスがどのようにしてこの危機的状況に直面するにいたったのかを、二大政党と有権者との関係の変遷から考察する。まず離脱支持派とは、既存の政党政治から 「疎隔された人々」 の連合であることを示す。異なる階級を横断する有権者連合が、社会の一極となるまで膨れ上がったのには、閉鎖志向の権威主義と都市中心主義のエリート政治家への鋭い反発が触媒として働いたことがある。その上で本稿が着目するのは、「疎隔された人々」 を構成する相当数の労働者階級が、現代化した労働党に幻滅し選挙のたびに棄権を続けていたことである。彼らの消極的投票行動が離脱支持という積極的な態度表明へと転じたのはなぜか。本稿は労働党政権の再分配策によるフィードバック効果と、それに対するキャメロン政権下で実施された緊縮財政とその影響が現れたタイミングを検討し、経済的困窮に起因する疎隔意識が強まったことが人々を離脱支持へと向かわせた可能性を考察した。