齋藤圭介「質的比較分析 (QCA) と社会科学の方法論争」『社会学評論』2017年, 68巻, 3号, p.386-403

本文

社会科学の分野において, 政治学者を中心に1990年代後半から定量的研究と定性的研究のあいだで方法論についての論争が生じた. 定量的な方法論が定性的なものよりも科学的であるという主張にたいし, 定性的研究者は反論する過程で方法論・手法を洗練させていく.

本稿の目的は, こうした定性的研究者の新たな方法論のうち質的比較分析 (QCA) に注目をし, 社会科学の分野で生じているこの方法論争を検討することで, 社会学で目下進んでいる方法論の多様化に積極的な意義を見いだすものである.

本稿の構成は以下のとおりである. まず定量的・定性的研究という枠組みで方法論争が先鋭化した社会科学の方法論争を取り上げ, そこでの論点を整理する (2節). 続いてQCAの方法論を概観したのち (3節), 定量的手法とQCAの支持者たちが, 定量と定性の方法論をめぐる論点にたいして, どこに・いかに対立しているのかを確認する (4節). 以上の議論をまとめ, 方法論の対立は, 単なる手法 (テクニック) 上の違いにとどまらずその方法論が拠って立つ世界観にまで及ぶ根深い問題であることを指摘し, 方法論間にあるトレードオフの問題を考察する. そして現在の社会学の方法論の多様化という現状の理解に資する知見を導出し結論とする (5節).

佐藤健二, 2011, 『社会調査史のリテラシー――方法を読む社会学的想像力』新曜社

社会調査史のリテラシー

社会調査史のリテラシー

  • 作者:佐藤 健二
  • 発売日: 2011/02/01
  • メディア: 単行本
 

野村康, 2017, 『社会科学の考え方――認識論, リサーチ・デザイン, 手法』名古屋大学出版会.

社会科学の考え方―認識論、リサーチ・デザイン、手法―
 

石田淳, 2017, 『集合論による社会的カテゴリー論の展開――ブール代数と質的比較分析の応用』勁草書房.

ガーツ, Goertz, G. and J. Mahoney, 2012, A Tale of Two Cultures: Qualitative and Quantitative Research in the Social Sciences, Princeton, NJ: Princeton University Press.

=2015, 西川賢・今井真士訳『社会科学のパラダイム論争――2つの文化の物語』勁草書房.