田泰昊「メディアミックスに関する日本出版人の認識と実践に関する質的研究 ーライトノベル編集者を中心に」『年報カルチュラル・スタディーズ』2018年, 6巻, p.145-168

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本稿は、日本のコンテンツ産業の特徴であるメディアミックスが、実際にどのように動 いているかについて考察するものである。特にメディアミックスの現場で活動している実 務者(KADOKAWAライトノベル編集者)たちが、自分の職業とメディアミックスをどの ように認識しているか、そしてその認識のもとでどのように実践しているかを、インタビ ューを通じて検討した。その結果、メディアミックスはあくまでも編集者本人の「書籍の 販売数をより多くするための戦略」であって、彼らを動かす動力は創造的な動機ではなく、 リスクに対する恐れからなるものであった。本稿はこのリスクを大きく分けて3 つあるも のとみて、彼らがそれをどのように乗り切っているかを明らかにしている。3 つのリスク とは、第一がライトノベル市場の狭さ、第二が相手会社に対する不安、第三がメディアミ ックスされた作品の作品性に対する不安である。これらを克服するため、彼らはメディア ミックスを念頭に置き、良い作品をつくろうと努力する。具体的な実践は次のようである。 1つ目は、キャラクターをつくることに力を入れることで、イラストレーターの選定の際 にもメディアミックスを考えながら進める。2 つ目は、相手会社(マンガやアニメ関係)に 対する情報を継続的に収集し、場合によってはプレゼンテーションまでする。3 つ目は、編 集者自ら発売のタイミングを調節し(コミカライズ)、脚本会議にも定期的かつ積極的に参 加(アニメ化)することで、メディアミックス作品の完成度を高め、作品の魅力が失われ ないようにすることである。