吹上裕樹「生成する出来事としての音楽 ー愛着の経験からみる主体、対象、行為」『現代社会学理論研究』2015年, 9巻, p.81-93

本文

本稿は、音楽への愛着の経験について議論するものである。具体的には、人が音楽に対して愛着するとはどのような経験なのか、それはどのような条件において可能となり、どのように人間主体の行為や認識のあり方に影響するのかという問いを論じる。音楽をはじめとした文化的対象への愛着の問題は、文化や芸術を扱う社会学の議論において、これまで必ずしも正面から論じられてこなかった。とくに、ピエール・ブルデューに代表される従来の文化社会学の議論において、そうした問題は、構造的なメカニズムによって規定されるものとされてきた。これに対し、本稿では、主としてアントワーヌ・エニョンによるアマチュア音楽愛好家の研究を参照する中で、音楽への愛着を、対象と接する愛好家らの具体的な実践の中で生み出される予測できない効果であると考える。エニョンらの議論の検討に加えて、本稿では、愛着の経験が生み出される時間的プロセスの問題について論じる。こうした議論を通じて、対象への愛着が生み出される「生成する出来事」の特性を明らかにし、愛着の経験を記述するためのアプローチを提示することが目指される。

南田勝也,2008,「表現文化への視座― 文化作品は人に何を与え、人と人をどうつなぐのか」南田勝也・ 辻泉編『文化社会学の視座― のめりこむメディア文化とそこにある日常の文化』ミネルヴァ書房, 39-62. 既読

諏訪淳一郎,2012,『パフォーマンスの音楽人類学』勁草書房

パフォーマンスの音楽人類学

パフォーマンスの音楽人類学

 

エニョン, Hennion, Antoine, 2001,“Music Lovers: Taste as Performance,”Theory, Culture & Society, 18(5): 1-22.

― , 2003,“Music and Mediation,”Martin Clayton, Trevor Herbert & Richard Middleton eds., The Cultural
Study of Music: A Critical Introduction, London: Routledge, 80-91.(=2011,若尾裕監訳「音楽とその媒体」 『音楽のカルチュラル・スタディーズ』アルテスパブリッシング,86-99.)