椹木野衣著『反アート入門』(2010)

 

反アート入門

反アート入門

 

芸術には芸術の分際がある。アートの出生とその証明。ポップアートと死の平等。あまりに根源的な(反)入門書。

第1の門 アートとはどういうものか

 アートの出生とその証明
 ジャンルはどのように分化したのか ほか
第2の門 アート・イン・アメリカ

 アートの独創vs.習熟の奨励
 MoMAという新規格 ほか
第3の門 冷戦後のアート・ワールド

 アメリカのアートがすべてではなかった
 ウエスト・コーストからの妄想と惨劇 ほか
第4の門 貨幣とアート 

 アートと投機マネーはよく似ている
 蓄財家たちの癒されない渇望 ほか
最後の門 アートの行方

 わたしたちにとってのアートとは?
 「あらわれ」と「消え去り」のアート ほか

45 ジャスパー・ジョーンズロバート・ラウシェンバーグ

55 ミニマル・アート, 「箱」で有名なドナルド・ジャッド、「2001年宇宙の旅」のモノリスのヒントになったと言われるジョン・マックラケンの「板」、カール・アンドレの平板彫刻、丸や三角を多用するロバート・モリスやソル・ルウィット 

62 マイケル・フリードによるミニマル・アート批判「芸術と客体性」

ミニマリズムは、ひとつの大きな過ちをおかした。彼らは、作品はそれらが作られる素材や形式に忠実でなければならないというミニマリズムの考えに、馬鹿正直なほど忠実すぎた。その結果、作品からイメージや物語のたぐいは一掃されたけれども、その代わり、作品は単なる箱や棒や板のような物的対象にまで還元されてしまった。

 けれども、モダニズムの作品にとって重要なのは、絵画や彫刻というジャンルについての感覚を研ぎすますことにある。彼らは、そうした最低限のジャンルについての規律すら溶解させてしまった。その時、なにが起こったか。結局、作品は見るに値する内容を失い、見るべきものを失った鑑賞者は、なす術もなく作品のまわりをグルグル回るしかない。

 視覚を第一義とすべき美術作品にとって、これはゆゆしき事態である。見ることよりも、身体性や時間の推移のほうが前面に出てしまっている。これは、美術というよりも演劇の醸し出す事態に近い。これに対し、見るという経験は、いかなる時間的経過や身体も必要とせず、瞬時にして成立するものだ。われわれが絵画や彫刻を通じて得るのは、そのような明白な無時間的体験でなければならない」

67 ロバート・スミッソン、マイケル・フリード流のモダニズムを批判。ロバート・モリス、アースワークを好意的に解釈。美術館・ギャラリーもまた時間的経験である。