稲葉振一郎著『不平等との闘い−ルソーからピケティまで』(2016)

フランスの経済学者トマ・ピケティによる大著『21世紀の資本』が公刊されたのは2013年。その後、ノーベル経済学受賞者のスティグリッツクルーグマンらの推薦もあって英訳から火がつき、瞬く間に世界的にベストセラーになりました。しかし、どうしてそのような大ブームになったのでしょうか?実は、すでに下地はできていたのです。高度成長を終えた先進国のなかでは、ピケティしかり、日本の「格差社会」「大衆的貧困」ブームしかり、明らかに「不平等ルネサンス」とでもいうべき学問的潮流が起きていたのでした。それではいったいいつ、経済学者たちの「不平等との闘い」は始まったのでしょうか? 本書では、ピケティ的な意味での「市場経済の中での不平等(所得や資産の格差)」に焦点を絞り、その歴史を紐解きます。まずは18世紀にフランス革命の思想的後ろ盾となった、ジャン=ジャック・ルソーと、そして“神の見えざる手"で知られるアダム・スミスから議論を始め、マルクス経済学、近代経済学、ピケティの下準備となった期間「不平等ルネサンス」、現代のピケティまで、260年間におよぶ不平等と闘った学問的軌跡を追っていきます。

はじめに—ピケティから、ルソーとスミスへ
スミスと古典派経済学—「資本主義」の発見
マルクス—労働力商品
新古典派経済学
経済成長をいかに論じるか
人的資本と労働市場の階層構造
不平等ルネサンス(「クズネッツ曲線」以後;成長と格差のトイ・モデル;資本市場の完成か、再分配か)
ピケティ『21世紀の資本』
ピケティからこころもち離れて

91「1. 分配の問題と生産(資源の活用)の問題の分離という大まかな理論的志向が、新古典派の立場をとる経済学者の間で所得・富の分配問題への関心を低めた。2. 収穫逓減の結果としての、資本労働比率、ひいては労働線賛成、生活水準の収斂の可能性の予想もまた、少なくとも一部の経済学者の間に「自由な市場は分配がどうあれ生産を最大化するだけではなく、場合によっては分配の平等化に貢献しさえする」というアイディアをいきわたらせた」
92 クズネッツ, 逆U字曲線「経済成長の初期局面(産業革命開始以降善事)には、成長とともに分配は不平等化するが、その傾向はいずれ逆転し、豊かな社会では成長とともにむしろ分配は平等化する」80年代あたりまでの結論。
99

経済成長の世界史

経済成長の世界史

100「古典派も新古典派も、総要素生産性の上昇については何も語っていません。辛うじてマルクスのみが、それについて正面から問題にしていますが」
125「それに対して60年代あたりから、かように「市場の失敗」が中心課題と見なされてきた開発経済学、農業経済学、労働経済学を、(旧)制度学派的な折衷主義ではなく、新古典派経済学の立場から一貫した論理で再編していこう、という機運が高まります。その立役者がアメリカ合衆国シカゴ大学に拠点を置く、セオドア・シュルツとゲイリー・ベッカーでした」
157 格差と分配の関係。「資本取引のある世界」と「資本取引のない世界」の比較。
168 ラムゼイでは、完全市場ならば資本所有の格差に影響を与えず資本利用の均等化が実現。完全市場でなければ長期的最適化の副産物として資本所有の平等化が実現。OLGでは、資本市場にかかわらず長期的最適化と同時に長期的な資本所有の平等化も実現する。
223 動学的確率的一般均衡 DSGE モデル
228 デイヴィッド・ワイル
経済成長

経済成長

229 べナブー, ガロア「人的資本の外部性に期待して「不平等の縮小、格差是正が成長にプラスである」と論じる立場」広い意味での功利主義、厚生主義
233「デレク・パーフェっとは「平等とはそれ自体が追求に値する目的なのでははなく、平等の追求を通じてほぼ不可避的に弱者が救済されるからこそ追求に値するのだ、重要なのは人々の間の平等の追求より、弱者の優先である」との問題提起―優先主義 prioritarianismと呼ばれます―」ハリー・フランクファート「十分主義 sufficientism」
232 一方で、ロールズ、セン、ピケティ?
234 ルソー対スミスでルソーの側に立つ(かもしれない)ピケティ
237
国家はなぜ衰退するのか(上):権力・繁栄・貧困の起源 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

国家はなぜ衰退するのか(上):権力・繁栄・貧困の起源 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

246 不平等の経済学, 理論面, 遊喜一洋, 中嶋哲也
21世紀の不平等

21世紀の不平等

247「社会学的社会階層・移動研究における理論の危機、というより解体」
社会階層―豊かさの中の不平等

社会階層―豊かさの中の不平等