ヒラリー・パトナム著『事実/価値二分法の崩壊』(2002=2006→新装版2011)

事実/価値二分法の崩壊 〈新装版〉 (叢書・ウニベルシタス)

事実/価値二分法の崩壊 〈新装版〉 (叢書・ウニベルシタス)

大衆文化や哲学思想・社会科学などにおいて、歴史的にさまざまな形で展開され擁護されてきた「事実/価値二分法」に対して論争を挑むパトナム哲学の批判的考察。その「事実認識は客観的でありうるが、価値判断は主観的である」という根底的思想をD.ヒュームに始まりカント、デューイ、A.セン、ハーバーマスらを検証して斬新かつ独創的反論を提示し、問題の把握と理解に導く。

序文
序論

第I部 事実/価値二分法の崩壊

第一章 経験主義的背景
 区別は二分法ではない:分析的と総合的
 事実/価値二分法の歴史
 二分法の「事実」の側
 論理実証的言語観の貧困
第二章 事実と価値の絡み合い
 認識的価値も価値である
 認識的価値と倫理的価値の違い(なぜその違いの重要性が誤解されてはならないか)
 「濃い」倫理的概念
 われわれはなぜ事実/価値二分法に誘われるのか
 次回に……
第三章 アマルティア・センの世界における事実と価値
 セン、アダム・スミス、「第二局面」の古典派経済学
 倫理学と経済学
 潜在能力アプローチ
 結論:絡み合い再論

第II部 合理性と価値

第四章 センの「命令主義的」出発点
 価値判断は命令を含意するか?
 「副次的に評価的な名辞」
 倫理的議論における理由
第五章 選好の合理性について
 合理的選好の理論
 自律を顧慮することは本当に合理的か
 理由を欲するのは合理的か
 内部理由と外部理由
 結論
第六章 価値はつくられるのか発見されるのか
 価値評価についてのデューイの見解
 ローティとデューイ
 デューイの価値理論に対する還元主義的反論
 真理と保証された主張可能性
 要約
第七章 価値と規範
 ハーバーマスの立場の簡潔な記述
 「規範/価値」二分法には問題がある
 バーナード・ウィリアムズの抜け道
 「討議倫理学」はこの問題をかわしているか
 アーペルとパースは間違った真理論を奉じている
 倫理的真理についてのアーペルの説明とその難点
 それにしても、なぜ人びとは価値を相対化ないし「自然化」したがるのか
 結論
第八章 科学哲学者たちの価値からの逃避
 結論

訳者解説

6「センは、いかなる合理的価値体系においても「基礎的価値判断」が存在するのでなければならないという教説全体が間違っていると、一度たりとも主張することなく、いかなる価値判断であれ、それが基礎的であるということは検証不可能である、と事実上論じているのだ!」
訳者解説
40「「残酷な」は純粋に記述的に用いることもできます。歴史家が、ある君主が異常に残酷であったとか、その政権の残酷さが多くの反乱を引き起こした、と書くような場合です。「残酷な」は、想定された事実/価値二分法を端的に無視するのであり、あるときには規範的目的のために、あるときには記述的名辞として、使われることを喜んで許しているのです。文献では、そうした概念はしばしば「濃い倫理的概念」と呼ばれています」
184 道徳的実在論の擁護「倫理的主張は、保証されえたり、保証されえなかったり、真でありえたり偽でありえたりする」