髙橋芳郎著『画商が読み解く 西洋アートのビジネス史』(2022)



アートとは「観ること」の感動体験です。本来であれば、観る者を魅了する「作品」が価値をもつはずなのですが、今日では、その作品を描いた「アーティスト」の才能のほうに価値を見出し、評価されるようになりました。
有名アーティストともなれば、絵を描くための下絵ですら高い値段で取引されています。しかし、作品が高値で取引されることは、アートの経済的価値でしかありません。アートには、「経済的価値」よりもまえに、人々を感動させる「審美的価値」があり、人々のあいだでそれを美として共有する「社会的価値」があるのです。

一般的に、アートとビジネスは異なるものであると考えられがちですが、アートが人々のあいだで、どのようにして経済的価値をもつにいたったかを見ていくと、アートとビジネスの成り立ちは驚くほど似ていると気づきます。

本書は、アートの経済的価値に焦点を当てて、アートの歴史を紐解き、アートのもつ価値の転換がいつどのようにして起こったのかを、アートとビジネスの狭間に立つ美術商の視点から読み解いたものです。

第1章 アートとはなにか?
 アートという言葉の多義性
 広義のアートと狭義のアートの違い
 現代のアートと、前近代のアートとの違い
 アートはそれ自体を目的とする
 あらためて、アートを定義する

第2章 ルネサンスに見るアーティストの誕生
 ルネサンスとは何か
 キリスト磔刑像に見る中世の画家の姿
 偶像崇拝を禁止したキリスト教
 アーティストの萌芽
 社会的地位が低かったルネサンスの芸術家
 職人として扱われていたルネサンスの芸術家
 工房での共同制作が当たり前だった時代
 依頼人からの注文で絵を描いた画家たち
 なぜルネサンスフィレンツェに起きたのか
 ダ・ヴィンチの死からアーティストの誕生まで

第3章 ルネサンス以降のアートの変遷
 ヨーロッパで起きた宗教改革の影響
 プロテスタントが生んだ風景画と風俗画
 カトリックが生んだバロック美術
 イタリアの同業組合とアカデミー
 フランスにおけるアカデミーの誕生
 18世紀フランスで生まれたロココ美術
 政治権力と結びついた新古典主義
 ルーヴル美術館のオープン
 アートは価格だけでははかれない

第4章 メディアとブランドの誕生
 アカデミーの教義に対する反発
 デッサンか色彩か、それが問題だ
 《メデューズ号の筏》に見るロマン主義絵画の誕生
 新古典主義のアングルとロマン主義ドラクロワ
 ロマン主義は印刷技術によって広まった
 中産階級に愛されたパリの新聞
 産業と経済の発展が社会を改良する
 ブルジョワジーがアートを支える
 産業振興策としてのパリ万博
 ロマン主義から写実主義
 現代的なアーティストの誕生
 パリ万博グランプリのブランド力
 パリ万博によって開かれた芸術家の概念
 なぜサロンは力を持っていたのか
 美術史の転換点を象徴するマネ
 《草上の昼食》と《ヴィーナスの誕生》の違い
 第二回パリ万博の裏で開催されたマネの個展
 マネがつくったバティニョール派
 第一回印象派展の衝撃
 写真のリアリズムに対抗した印象派
 我が道を行くセザンヌ
 作品よりも作家の価値が高くなる
 芸術家の人生にとりつかれたゴーギャン
 悲劇の天才画家ゴッホ

第5章 画商の勃興とその発展
 画商の勃興
 17世紀における絵画市場の拡大と画商の増大
 18世紀にはアカデミーが画商の役割も果たした
 19世紀のフランスで流行した複製絵画と版画
 印象派の画商として知られるデュラン=リュエル
 アメリカ市場を狙って成功したデュラン=リュエル
 現代の画商の原型はデュラン=リュエルがつくった
 アメリカで広まったモダンアート
 絵画が経済的価値ではかられる時代に

第6章 アートとビジネスの関係
 ビジネスにアート思考は必要か
 ビジネスもアートも虚構である
 アーティストのブランド化
 ビジネスに効くブランド力
 アートはビジネスになった
 アートとビジネスの共通点
 アートが好きな人はビジネスで成功する

311 ペリー『みんなの現代アート──大衆に媚を売る方法、あるいはアートがアートであるために』

エニック『ゴッホはなぜゴッホになったのか―芸術の社会学的考察』

ゲイ『快楽戦争―ブルジョワジーの経験』

ボミアン『コレクション―趣味と好奇心の歴史人類学』

フック『印象派はこうして世界を征服した』

山田『ブランドの条件』

山田『贅沢の条件』

海野『パトロン物語―アートとマネーの不可思議な関係』