ギュスターヴ・フローベール著・太田浩一訳『感情教育』(1869→2014)

感情教育(上) (光文社古典新訳文庫)

感情教育(上) (光文社古典新訳文庫)

感情教育(下) (光文社古典新訳文庫)

感情教育(下) (光文社古典新訳文庫)

法律を学ぶためパリに出た青年フレデリックは、帰郷の船上で美しい人妻アルヌー夫人に心奪われる。パリでの再会後、美術商の夫の店や社交界に出入りし、夫人の気を惹こうとするのだが…。二月革命前後のパリで夢見がちに生きる青年と、彼をとりまく4人の女性の物語。19世紀フランス恋愛小説の最高傑作、待望の新訳!

下巻 412「どうしてぼくが愛していると気づいたのかとフレデリックは尋ねた。「ある晩、わたしの手首に、手袋と袖口のあいだに接吻なさったことがありましたね。そのとき、こう思いました。«この人はわたしを愛している……愛しているんだわ»と」
訳者註「そうした場面は本書に描かれていない。似たような場面が第2部4章にある[上巻463頁参照]が、相手はロザネットであり、作者の勘ちがいの可能性もある」
上巻463「「かわいらしい指だね」フレデリックは女の左手をやさしくとった。轡鎖形の金のブレスレットがはまっている。「おや、すてきじゃないか。だれからの贈り物?」「あら、ずっとまえから持ってるのよ」そらぞらしい返事は聞きすごして、«この機をうまく利用する»ことにした。女の手首をにぎったまま、手首と袖口のすきまに唇をおしあてた。「だめよ、人に見られるでしょ」「いいさ、かまうもんか」」