ハ・ジン著『すばらしい墜落』(2009=2011)メモ

すばらしい墜落

すばらしい墜落

嫁姑問題の意外な解決方法、ペットと暮らす心がまえ、年金と介護現場の苦悩……NYに暮らす中国系移民の生活を描きつつも、わたしたちの日常の哀歓とかさなりあう物語たち。
〔著者は〕この短篇集は中国人移民にとどまらず、「孤独を耐え忍び、故郷を探す、世界中の無数の人びとの物語」だと述べています。だとしたら、『すばらしい墜落』は、わたしたちの物語なのかもしれません。(訳者あとがきより)
異郷で思う、家族の絆
 本書は、アメリカの中国系作家ハ・ジンが、異郷で暮らす人々の苦労と希望を描いた短編集である。
 登場する中国人たちは、アメリカにくればチャンスがあると期待していた。だがいざ来てみると現実は厳しい。給料不払いと失業のためホームレスの危機に陥る青年(「すばらしい墜落」)や、介護職ゆえの苦悩に直面する女性(「年金問題」)のように、都会には故郷と違う苦労がある、と思い知らされる。そして、アメリカ生活に適応すれば一方で、嫁姑のいさかいを仲裁しようとする男性(「板ばさみ」)や、孫への〝今風〟な名づけに仰天する祖父母(「子は敵のごとし」)のように、故郷の家族とのカルチャー・ギャップに苦しむことになるのだ。
 登場人物はみな異郷で生きぬく覚悟をしているが、それでも望郷の念や遠く離れた両親への愛がどの物語にも見え隠れする。彼らの苦境や心情は、現代日本の社会問題や、都会人が抱える孤独感とかさなり、中国本土からニューヨークへ渡った移民の物語でありながら、驚くほど身近に感じられる普遍性を持っている。
 必死に未来を切り開こうとする人々の姿に、共感と、切なさと、しみじみとした読後感を覚える傑作短編集。

 [目次]
 インターネットの呪縛
 作曲家とインコ
 美人
 選択
 子は敵のごとし
 板ばさみ
 恥辱
 英文科教授
 年金制度
 かりそめの愛
 しだれ桜のある家
 すばらしい墜落