佐藤卓己著『あいまいさに耐える -ネガティブリテラシーのすすめ』(2024)

 

SNS等に溢れるあいまい情報に飛びつかず、その不確実性に耐える力が輿論主義(デモクラシー)の土台となる。世論駆動のファスト政治、震災後のメディア流言、安保法制デモといった二〇一〇年代以降のメディア社会を回顧し、あいまいさに耐えられない私たちにネガティブ・リテラシー(消極的な読み書き能力)を伝授する。

 はじめに――輿論主義のために

第一章 ファスト政治
 1 政権交代選挙前、私はこう書いた(二〇〇九年七・八月)
 2 マニフェスト選挙の消費者感覚(二〇一〇年一月)
 3 ファスト政治と世論調査民主主義(二〇一〇年一〇月)

第二章 メディア流言
 1 「想定外」の風土(二〇一一年五月)
 2 危機予言とメディア・リテラシー(二〇一一年一〇月)
 3 「災後」メディア文明論と「輿論2・0」(二〇一四年二月)

第三章 デモする社会
 1 論壇はもう終わっている(二〇一四年二月)
 2 「デモする社会」の論壇時評(二〇一二年八月)
 3 ファスト政治と「輿論2・0」(二〇一〇年六月)

第四章 情動社会
 1 世論調査の「よろん」とは?(二〇一六年二月)
 2 もうパブリック・オピニオンはないのか(二〇一六年六月)
 3 報道の自由度ランキング(二〇一六年一一月)

第五章 快適メディア
 1 玉音から玉顔へ(二〇一七年一二月)
 2 「変化減速」時代の快適メディア(二〇二〇年五月)
 3 例外状況の感情報道(二〇二一年三月)

第六章 ネガティブ・リテラシー
 1 戦争報道に「真実」は求めない(二〇二二年九月)
 2 AI時代に必要な耐性思考(二〇二二年三月)
 3 ネガティブ・リテラシーの効用(二〇二三年一一月)

 あとがき

 

山口祐加,星野概念著『自分のために料理を作る -自炊からはじまる「ケア」の話』(2023)

 

著者のもとに寄せられた「自分のために料理が作れない」人々の声。「誰かのためにだったら料理をつくれるけど、自分のためとなると面倒で、適当になってしまう」。そんな「自分のために料理ができない」と感じている世帯も年齢もばらばらな6名の参加者を、著者が3ヵ月間「自炊コーチ」! その後、精神科医星野概念さんと共に、気持ちの変化や発見などについてインタビューすることで、「何が起こっているのか」が明らかになる――。「自分で料理して食べる」ことの実践法と、その「効用」を伝える、自炊をしながら健やかに暮らしたい人を応援する一冊。

まえがき 料理は大変だと思っているあなたに

Stage1 料理の問題たち

1 料理についてこんがらがってしまっていること

「理想の家庭料理像」に押しつぶされそうになっていませんか?
食事は決めることが多すぎる
献立を立てるのは大仕事
気楽に料理がしたいと思いながらもできないのはなぜ?
誰も褒めてくれない問題/料理の面白さ、楽しさがいまいちわからない
家事をする元気がない
自分の料理に自信が持てない。おいしそうと思えない
料理上手のSNSがたまにしんどく感じられるのはなぜ?
料理と自尊心との密接な関わり

2 自分のために料理するのって難しい?

何のために料理するのか目的を絞ろう
自分を大事にするための料理
自炊は自分の帰る場所を作ること
世界でたった一人のオーダーメイドな料理人の誕生

 

Stage2 実践!自分のために料理を作る

01 土門さん第1回【30代・女性・執筆業】
料理とは何か/調理の基本/調味の基本/レシピを見ないでしょうが焼きを作る/新しいしょうが焼きにチャレンジする/まとめ

02 藤井さん第1回【30代・男性・会社員】
自炊のモチベーションの上げ方/トマトパスタを作っていく/料理は途中でやめたっていい/夕食はイベント化されすぎている?/包丁、まな板は使わずカレーを作る/食べることをもっと楽しもう

03 横山さん(仮名)第1回【30代・女性・会社員】
料理は体力のあるうちにやる/隙間時間の一手間が料理のハードルを下げる/食習慣を作る心を見つめてみる/料理は自分らしくなるレッスン/「世の中は壮大な役割分担」/疲れていると、料理はできない/豚汁の下ごしらえをする/豚汁の合間にカブサラダ作り/カブサラダが完成/味噌が溶き残ってもご愛嬌/ヘルシーな食事が自分で作れた


対話の時間を味わいたい――星野概念

01 土門さん第2回【30代・女性・執筆業】
おいしさの九割は安心感でできている/食べることに対して積極的になりました/きついダイエットをしていた一〇代、二〇代/料理は音楽と似ている/レシピの余白を読み解く/まとめ

02 藤井さん第2回【30代・男性・会社員】
目玉焼きで気分が上がるという気づき/料理で知りたいのはレシピだけじゃない/「小料理屋形式」のメリット/山口式スーパー改革案?/「自分のために料理ができない」とは/コンビニおにぎりは一点だけど袋麵は〇・五点/無限に語れる料理のあれこれ/自分を喜ばせて「大丈夫」を担保する

03 横山さん第2回【30代・女性・会社員】
一ヵ月でここまで変わった/気分の浮き沈みが激しいんです/気分の安定のために味わい始めました/料理は「今、ここ」に集中させてくれる/西洋医学ではわからない食のリアル/料理は無心になれる/長続きする幸せ

04 伊藤さん第2回【30代・女性・会社員】
料理は筋トレなんだな/仕事はできても料理ができない私/作る人が一番えらい/母の食卓の愛おしさとコンプレックスと/置いてきた宿題の解き方/評価されない、自分が満たされる世界/自分の身体にしたがい、知恵をつける/自分の「子ども」を解放しよう

05 小山田さん第2回【20代・女性・管理栄養士】
料理のプロなのに、料理ができない/優しさがプライベートを浸食してくるとき/自分を喜ばせられた幸せ/人間関係のトラウマが「合わせる私」を作っている/優しくておいしくて幸せ、でも食べたらなくなってしまう/続ける中でわかることがある/過程を「味わう」/「味わい」の喜びは背中で示す/今やっていることを感じる/「味わいアンテナ」を伸ばそう/試行錯誤こそが「味わい」

06 川崎さん第2回【50代・女性・販売員】
お弁当を買う日もあります/「料理のテトリス」/一人だとついおやつを食べてしまう/一人になった寂しさと自由さ/原発事故の爪痕とコロナ禍の家族の変化/火を使わない夏の料理が知りたい/川崎さんのお料理、食べてみたいな

 

Stage3 自分のために料理を作る7つのヒント

1 六名の参加者に三ヵ月間レッスンをしてみて

調理の「なぜ」がわかると、他の料理にも応用できる
億劫なことはやらなくていい
日々食べているものをもっと肯定しよう
自炊について話す機会の必要性

2 自分のために料理を作る七つのヒント

ヒント①:自分が食べたいものを作る
ヒント②:結果ではなく、プロセスに集中する
ヒント③:作った料理を細かく評価せず、やりすぎくらい自分を褒める
ヒント④:下手な自分を愛でる
ヒント⑤:他人と比べない
ヒント⑥:心の中の小さな自分に作ってあげる
ヒント⑦:環境を変える

あとがき 絶対に自炊して欲しい、なんて言えない

 

おまけ 本書で紹介したレシピ

しょうが焼き
ワンパンで作れる「トマトツナパスタ」
レンチンで作れる「シーフードカレー」
好きな野菜で作れる豚汁
カブの葉とじゃこの炒め物
カブとしらすのサラダ

 

橋本毅彦,栗山茂久著『遅刻の誕生 ー近代日本における時間意識の形成』(2001)

 

いつから時計が気になるようになったのか。
明治6年1月1日をもって、日本は太陽暦、定時法の社会へと転換した。鉄道、工場、学校における時間規律の導入はいかにして行なわれ、そして、人々の生活をどのように変えていったのか。現在に至るまでの、時間意識の変遷をたどる。

序文 3

第1部 定刻志向──鉄道がもたらしたもの 15
 第1章 近代日本における鉄道と時間意識(中村尚史) 17
 第2章 一九二〇年代における鉄道の時間革命──自動連結器取替に関連して(竹村民郎) 47

第2部 時間厳守と効率性──新労働管理の発展 77
 第3章 近世の地域社会における時間(森下徹) 79
 第4章 二つの時刻、三つの労働時間(鈴木淳) 99
 第5章 蒲鉾から羊羹へ──科学的管理法導入と日本人の時間規律(橋本毅彦) 123

第3部 時間の無駄のない生活──子供の教育と主婦の修養 155
 第6章 子供に時間厳守を教える──小学校の内と外(西本郁子) 157
 第7章 家庭領域への規律時間思想の浸透 羽仁もと子を事例として(伊藤美登里) 189

第4部 新暦と時計の普及──近代的タイム・フレームの形成 211
 第8章 明治改暦と時間の近代化(川和田晶子) 213
 第9章 歳時記の時間(長谷川櫂) 241
 第10章 明治時代における時計の普及(内田星美) 267

第5部 時間のゆくえ 289
 第11章 農村の時間と空間──時間地理学的考察(荒井良雄) 291
 第12章 「時は金なり」のなぞ(栗山茂久) 321

文献解題 時間を考えるための五〇の文献(橋本毅彦) 345

 

市原真著『どこからが病気なの?』(2020)K

 

私たちは元気なときもあれば、病気のときもある。「がんです」と診断されても自覚症状がない場合もある。その境界線はどこにあるのだろう?病理医ヤンデルが教える病気のしくみ。

プロローグ 「病気と平気の線引きはどこ?」
第1章 病気ってどうやって決めるの?

 病気だと決める人は誰?
 すぐわかる病気
 なかなかわからない病気
 病気には原因がある?
 結局病気ってなんなの?
第2章 それって結局どんな病気なの?

 お腹が痛くなるってなんなの?
 かぜと肺炎って違うの?
 喘息とかアトピーって体質なの?
 高血圧って何がどう悪いの?
 年を取るとみんな腰痛になるの?
 がんってなんなの?
第3章 病気と気持ちの関係は?

 病は気からって本当?―気持ちの問題なの?
 気合いで治す!とか言う人がいるけれど本当に気合いで治るの?
 病気と平気の線引きはどこ?

 

ピーター・ウィンチ著,森川真規雄訳『社会科学の理念 ーウィトゲンシュタイン哲学と社会研究』(1958=1977)

 

ウィトゲンシュタインを一つの頂点とする現代哲学の成果に照らして,ウェーバー,パレート,デュルケームらの所説を吟味しつつ,「経験科学・実証科学としての社会科学」という現代の通念に真向から対立する社会科学の理念を提出した古典的名著。

第1章 哲学的基底(目的と戦略;下働きとしての哲学 ほか)
第2章 有意味な行動の本質(哲学と社会学;有意味な行動 ほか)
第3章 科学としての社会研究(J.S.ミルの「道徳科学の論理」;程度の相違と質の相違 ほか)
第4章 意識と社会(パレート―論理的な行為と論理によらない行為;パレート―残基と派生体 ほか)
第5章 概念と行為(社会関係の内在性;論弁的「観念」と非論弁的「観念」 ほか)

 

ベンジャミン・コンスタン著,中村佳子訳『アドルフ』(1816=2014)

 

将来を嘱望された青年アドルフは、P伯爵の愛人エレノールに執拗に言い寄り、ついに彼女の心を勝ち取る。だが、密かな逢瀬を愉しむうちに、裕福な生活や子供たちを捨ててまでも一緒に暮らしたいと願うエレノールがだんだんと重荷となり、アドルフは自由を得ようと画策するが......。

 

アーサー・O・ラヴジョイ著,内藤健二訳『存在の大いなる連鎖』(1936=1975→2013)

 

至高の存在である神から、非存在すれすれの被造物へ。この宇宙はあらゆる階層の存在で充満した、連続する鎖の環である―。「存在の大いなる連鎖」とは、プラトンに淵源するこのような観念のことをいう。「充満」と「連続」という、この二つの原理がいわば無意識のうちに人々に作用し続け、西洋において一つの世界観を作ってきたのだった。古代ギリシャから18世紀におよぶ約2000年の観念の歴史を学際的方法で描き出し、学問分野としての「観念史」(historu of ideas)の確立を宣言した記念碑的著作。

第1講 序論 観念の歴史の研究
第2講 ギリシャ哲学におけるその観念の創始―三つの原理
第3講 存在の連鎖と中世思想における内的対立
第4講 充満の原理と新しい宇宙観
第5講 ライプニッツとスピノーザにおける充満と充分理由について
第6講 十八世紀における存在の連鎖および自然における人間の地位と役割
第7講 充満の原理と十八世紀楽天主義
第8講 存在の連鎖と十八世紀生物学の或る側面
第9講 存在の連鎖の時間化
第10講 ローマン主義と充満の原理
第11講 歴史の結果とその教訓