小林康夫著『出来事としての文学―時間錯誤の構造』(1995→2000)

突然の「場の出現」=出来事。その「場」を創造する文学では、複数の時間が矛盾・対立・交錯する、時間錯誤を通じて、価値転倒がひき起こされる―。斬新な論理と技法を駆使した作品読解が人間存在の本質に迫り、その先の可能性を探る。同名の単行本に、大幅な追加を施した刺激的な文学論。

【第1部】
1 桃山の裾を廻ってゆく──川端康成「骨拾い」ほか
2 涙と露──夏目漱石夢十夜」(第一夜)
3 篝火と蹄──夏目漱石夢十夜」(第五夜)
4 歴史と無の円環──三島由紀夫豊饒の海
5 救いの不可能性と「ただ」──坂口安吾『白痴』ほか
6 戦争のヴィジョンと同時代性──村上龍『海の向こうで戦争が始まる』
7 誠実と自己欺瞞──大江健三郎『人生の親戚』
8 遭難と災厄──古井由吉楽天記』・平出隆『左手日記例言』
【第2部】
1 夢の光学・閃光のような父の〈署名〉──平出隆『若い整骨師の肖像』・『家の緑閃光』
2 水の性愛・水の苦痛──松浦寿輝『冬の本』・朝吹亮二『opus』
3 雪のカルナヴァル──朝吹亮二『終焉と王国』・『封印せよその額に』
4 「私たち」と死──守中高明『砂の日』
【第3部】
1 詩の《場処》・詩の《今日》──アンドレ・デュ・ブーシェヘルダーリン、今日』ほか
2 眼、眼差しの以前──オウィディウス『変身物語』(ナルシス)
3 エルサレムの封印──『聖書』
4 砂漠の逃走線──ポール・ボウルズ「遠い挿話」
5 再生の秘儀としてのエクリチュール──ル・クレジオ『オニチャ』
【第4部】
1 始まりとは何か
2 オイディプスの眼
3 われわれのデモーニッシュな存在を書く