高野和明著『ジェノサイド 』(2011→2013)

急死したはずの父親から送られてきた一通のメール。それがすべての発端だった。創薬化学を専攻する大学院生・古賀研人は、その不可解な遺書を手掛かりに、隠されていた私設実験室に辿り着く。ウイルス学者だった父は、そこで何を研究しようとしていたのか。同じ頃、特殊部隊出身の傭兵、ジョナサン・イエーガーは、難病に冒された息子の治療費を稼ぐため、ある極秘の依頼を引き受けた。暗殺任務と思しき詳細不明の作戦。事前に明かされたのは、「人類全体に奉仕する仕事」ということだけだった。イエーガーは暗殺チームの一員となり、戦争状態にあるコンゴのジャングル地帯に潜入するが…。

中村航著『100回泣くこと』(2005)

100回泣くこと (小学館文庫)

100回泣くこと (小学館文庫)

交際3年、求婚済み、歳の差なし。ここが世界の頂点だと思っていた。こんな生活がずっと続くんだと思っていた――。精緻にしてキュート、清冽で伸びやか。野間文芸新人賞作家が放つ、深い喪失を描いた物語。

夏目漱石著『それから』(1910→1948→2010)

それから (新潮文庫)

それから (新潮文庫)

長井代助は三十にもなって定職も持たず、父からの援助で毎日をぶらぶらと暮している。実生活に根を持たない思索家の代助は、かつて愛しながらも義侠心から友人平岡に譲った平岡の妻三千代との再会により、妙な運命に巻き込まれていく……。破局を予想しながらもそれにむかわなければいられない愛を通して明治知識人の悲劇を描く、『三四郎』に続く三部作の第二作。

グレッグ・イーガン著, 山岸真訳『ゼンデギ』(2010=2015)

ゼンデギ (ハヤカワ文庫SF)

ゼンデギ (ハヤカワ文庫SF)

記者のマーティンは、イランで歴史的な政権交代の場に居合わせ、技術が人々を解放する力を実感する。15年後、余命を宣告された彼は、残される幼い息子を案じ、ヴァーチャルリアリティ・システム“ゼンデギ”の開発者ナシムに接触する。彼女の開発した脳スキャン応用技術を用いて、“ゼンデギ”内部に“ヴァーチャル・マーティン”を作り、死後も息子を導いていきたいと考えたのだが…。現代SF界を代表する作家の意欲作。

丸谷才一著『樹影譚』(1988→1991)

樹影譚 (文春文庫)

樹影譚 (文春文庫)

自分でも不思議な樹木の影への偏愛を描いて川端康成賞を受賞した表題作ほか、秀作「鈍感な青年」「夢を買ひます」の二作を収録する

鈍感な青年
樹影譚
夢を買ひます

日本SF作家クラブ編『日本SF短編50 Ⅴ』(2013)

日本SF作家クラブ創立50周年記念アンソロジー第5巻。吉川英治文学新人賞受賞作『天地明察』の原型となった冲方丁「日本改暦事情」、日本SF大賞受賞作『華竜の宮』と同じ世界を描く上田早夕里の傑作「魚舟(うおぶね)・獣舟(けものぶね)」、伊藤計劃虐殺器官』のスピンオフ「The Indifference Engine」、瀬名秀明が物語を読むことの本質を問う「きみに読む物語」など、2003年から2012年に発表された10篇を収録。ゼロ年代から現在に至る日本SFの豊饒を届ける。

重力の使命 林譲治
日本改暦事情 冲方丁
ヴェネツィアの恋人 高野史緒
魚舟・獣舟 上田早夕里
The Indifference Engine 伊藤計劃
白鳥熱の朝に 小川一水
自生の夢 飛浩隆
オルダーセンの世界 山本弘
人間の王 Most Beautiful Program 宮内悠介
きみに読む物語 瀬名秀明

樋口恭介著『構造素子』(2017)

構造素子

構造素子

エドガー・ロパティンの父ダニエルは、H・G・ウェルズジュール・ヴェルヌに私淑する売れないSF作家だった。彼の死後、母ラブレスから渡された未完の草稿のタイトルは、『エドガー曰く、世界は』。その物語内で、人工意識の研究者だったダニエルとラブレスは、子をもうけることなく、代わりにオートリックス・ポイント・システムと呼ばれる人工意識、エドガー001を構築した。自己増殖するエドガー001は新たな物語を生み出し、草稿を読み進めるエドガーもまた、父ダニエルとの思い出をそこに重ね書きしていく―。SF作家になりきれなかった男の未完の草稿にして、現代SF100年の類い稀なる総括。第5回ハヤカワSFコンテスト大賞受賞作。