加藤慶一郎「性行為の社会学的分析 ―儀礼理論からのアプローチ―」『社会学評論』75巻2号 (2024)

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本稿の目的は,「性行為」を主題として,[1]その社会学的メカニズムを分析したうえで,[2]「性的不平等」を把握する枠組を提示することである.

「性」に関する現在の主要な議論(セクシュアリティ/親密性/フェミニズム社会学)は,ミクロな事象である「性行為」の説明としては不十分なものに止まっている.そこで本稿が依拠するのは,性行為を「儀礼」として理解し分析するアプローチである.その際,慣用的な「性」の概念を,その時空間的位相に応じて「性的所為/性行為(=性的相互行為)/性的関係」に分節化して検討する.それによって,「性的所為」に喚起された性的興奮が性行為の儀礼的過程を介して増強されること,また「性的関係」は互いの身体の性的部位を「聖なるもの」とすることで相互的な結びつきを強化することが明らかにされる.

また,本稿は性的不平等を「感情エネルギー」の非対称性によって把握する.その非対称に関与するのは,性行為の「悦び」と隣り合わせに存在する「危険」である.具体的には,性行為が不確定な要素や日常的な人格の聖性の侵犯によって魅力的なものになるという特性が論じられる.

最後に,性的不平等に関する本稿のアプローチの意義が,「性的同意」の議論との比較によって検討されるだろう.