堅田諒「自分自身を撮る――バーバラ・ローデン『ワンダ』における監督兼俳優という制作手法」『映像学』2025 年 114 巻 p. 78-96

リンク

映画において監督と俳優を兼ねる制作手法は、一体どのような意味を持つのだろうか。本稿の目的は、バーバラ・ローデン『ワンダ』(1970)を監督兼俳優による映画制作の特殊な一ケースとして取り上げ、本作の制作過程と映像テクストにおいて、ローデンの監督兼俳優という制作手法がいかなる役割を果たしたかを解明することである。まず、ローデンの俳優としてのキャリアを概観し、1960年代のハリウッドで俳優として活動していた彼女がメソッド演技と密接な関係を有していたことを明らかにする。次に、『ワンダ』におけるキャラクター造形に関するローデンの発言を参照し、彼女が俳優時代に出演していた『草原の輝き』と『ワンダ』における彼女の演技を比較・分析した際に「感情の表出」という問題が浮かび上がってくることを詳らかにする。そして、『ワンダ』の物語構造および映画のラストシーンの分析へと移り、編集時におけるローデンのラストショットの選択がいかなる意義を持つのかを検討する。最終的に、『ワンダ』におけるローデンの「自分自身を撮る」という制作手法は、俳優として取り組んできた「感情の表出」という演技上の課題を引き受けるものであると同時に、その問題を監督として、ラストショットの選択という作品全体の構造を統括するレベルから再考した創造的な実践であったと結論づける。