阪口祐介「犯罪リスク知覚の規定構造 ー国際比較からみる日本の特殊性」『社会学評論』2008年, 59巻, 3号, p.462-477

本文

本稿は,いかなる社会的属性を持つ人びとが犯罪被害のリスクを感じており,それはなぜなのか,について明らかにする.
1960年代から欧米ではじまる犯罪不安の実証研究は,女性,高齢者,低階層の人びとが犯罪被害のリスクを感じやすいことを明らかにしてきた.そしてそれらの研究は,そのような属性を持つ人びとが身体的・社会的に脆弱であるために犯罪被害のリスクを感じやすいという解釈を提示する.本稿では2000年のGSSとJGSSのデータを用いて,犯罪リスク知覚の形成要因の日米比較分析を行い,欧米で示されてきた規定構造は日本においても確認できるのか,そして日本の規定構造は欧米のように身体的・社会的脆弱性によって解釈できるのかを問う.
分析の結果,次のことが明らかになった.アメリカでは女性,高齢者,低収入の人びとが犯罪被害のリスクを感じやすく,その規定構造は身体的・社会的脆弱性によって解釈できる.一方,日本では若い女性,男性で幼い子どもを持つ人びと,女性のホワイトカラーおよび高学歴層で犯罪被害のリスクを感じやすく,その規定構造は身体的・社会的脆弱性によって解釈ができない.最後にこのような日本の規定構造について,性的犯罪への不安,重要な他者の脆弱性,GSSとJGSSのワーディングの違い,夜の1人歩きの機会,メディアの役割といった観点から複数の解釈を提示する.