池内了著『科学・技術と現代社会』(2014)

科学・技術と現代社会 上

科学・技術と現代社会 上

科学・技術と現代社会 下

科学・技術と現代社会 下

1995年、それまで宇宙物理学を専門としてきた著者は、阪神・淡路大震災オウム真理教事件高速増殖炉もんじゅ」のナトリウム漏出事故の発生をみるにおよんで、科学・技術・社会論に自分の足場を移した。科学と技術がいかにして科学・技術という一セットになったのか、それらは社会とどう影響を互いに及ぼしあっているのか、そこからどのような問題が新たに生じているか。専門家としての科学者は社会に開かれていなければならない。以後の著者の歩みは、科学者の社会的責任とつねに一対をなしていた。
本書は2007-2012年、総合研究大学院大学で足かけ6年にわたって行われた講義録をもとに再構成したもので、文字通り著者のライフワークを記す。全2巻・800頁近いこの大著には、著者が見・考え・実践してきたすべてが映し出されている。
(上)は、圧倒的な筆力で書き下ろされた80数ページにわたる序章「原発事故をめぐって」を筆頭に、全8章と3つの課外講義。人類の祖先が二本足歩行を始めた600万年前からSTAP細胞問題まで、圧巻の科学論である。
(下)には、科学者の倫理と社会的責任、安全性の考え方、エネルギー・資源問題、地球環境問題、核エネルギー問題、バイオテクノロジー問題、情報化社会問題など全7章および3つの課外講義を収録。


序 章 原発事故をめぐって
1 何が「想定外」であったのか?
一・一 地震の規模/一・二 津波/一・三 原発事故
2 原発の長所と反論
3 原発の問題点
三・一 原子炉破壊問題/三・二 放射線被曝問題/三・三 放射性廃棄物/三・四 廃炉問題
4 原発に関連するその他の問題
四・一 核燃料サイクル問題/四・二 プルトニウム問題/四・三 原発の単能性問題/四・四 原発立地の金権支配
5 付随して明らかになったこと
五・一 原発の反倫理性/五・二 微量放射線被曝問題/五・三 電力会社の地域独占体制/五・四 よく言われたこと
6 原発の事故確率
7 ストレステスト
8 原子力ムラ
9 日本の電力エネルギー事情
10 脱原発のコストと施策
一〇・一 脱原発のコスト・ベネフィット解析/一〇・二 脱原発のコスト/一〇・三 原発を止めて節約できるベネフィット
11 電力の地域独占
12 ドイツの挑戦と困難
13 日本の私たち
14 科学への信頼

第 I 部 科学・技術の現代
第一章 科学・技術・社会の強い結びつき
1 科学から技術へ
2 技術から科学へ
3 科学から社会へ
4 社会から科学へ
5 技術から社会へ
6 社会から技術へ
7 まとめ

第二章 科学と技術の異質性と同質性
1 「科学」の定義
2 「技術」の定義
3 科学と技術の対比──異質性
4 科学と技術の二人三脚──同質性
5 科学と技術が未分化の分野

第三章 科学の社会的意味
1 科学研究の要件
2 科学コミュニティ(科学者共同体)の要件
3 科学者の規範
4 「科学者」という存在
5 アカデミック科学としての大学
6 ポストアカデミック科学──大学の変貌
7 科学者への眼差し
8 専門職としての科学者

第四章 科学・技術・社会に関わる諸事件
1 過去二〇年近くの諸事件
2 代表的事件へのコメント
二・一 阪神・淡路大震災/二・二 カルト集団オウム真理教事件/二・三 高速増殖炉もんじゅ」の事故/二・四 薬害エイズ/二・五 JR西日本鉄道事故/二・六 宇宙交通事故/二・七 四大公害事件──高度成長期の国家の要請/二・七・一 熊本水俣病/二・七・二 新潟水俣病/二・七・三 イタイイタイ病/二・七・四 四日市喘息

課外講義 I 科学の二面性と複雑系の科学
1 科学の二面性
一・一 効用vs弊害/一・二 文化vs経済/一・三 軍事利用vs民生利用/一・四 単純系vs複雑系

第 II 部 科学の歴史と社会的変容
第五章 科学と技術の歴史
1 人類の英知の発展──三分の一の法則
2 技術の発展──四〇分の一の法則
3 文化の萌芽と蓄積──文明の発足と変遷
4 自然哲学としての古代ギリシャ科学
5 中世から科学革命前夜まで
6 産業革命の経緯
7 産業革命の現代への影響
七・一 地下資源に依存した大量生産・大量消費・大量廃棄の経済構造/七・二 環境汚染──公害問題から地球環境問題へ/七・三 労働者雇用問題/七・四 都市と地方の格差・対立/七・五 資本主義の確立と拡大
8 一九世紀における科学の確立と技術への接近
9 サイエンティストの登場と大学
10 日本のシステムの特異性
(付録)ロジスティック曲線

第六章 二〇世紀の科学と技術
1 二〇世紀科学の新展開
2 物理学の世紀
3 生物学の発展
4 二〇世紀の前半部と後半部
5 一九七〇年代に起こったこと
6 自動車産業に見る二〇世紀の技術発展
7 二〇世紀後半部の科学と技術
8 二〇世紀科学・技術と社会の問題点

課外講義 II 科学は終焉するのか
1 要素還元主義の限界
2 科学の終焉?
3 純粋科学はどこに?
4 複雑系の特徴
5 「理論」のレベル 

第七章 科学の変容
1 四つの変容
2 科学の軍事化
二・一 科学者個人の軍事協力/二・二 第一次世界大戦における科学者の動員/二・三 第二次世界大戦における戦事プロジェクトへの科学者の動員/二・四 ベトナム戦争など
3 科学の軍事化の陰と陽
三・一 軍事研究の科学者にとっての魅力/三・二 軍事研究の非効率性と非人間性
4 日本における科学の軍事化
5 爆弾の「進化」
6 科学の制度化(体制化
7 日本の特異性と制度化の問題点
8 科学の商業化
9 特許の功罪
九・一 特許の功/九・二 特許の罪
10 知財と大学

第八章 科学の技術化の問題点
1 「技術的合理性」とは何だろうか?
2 製品の寿命と変更可能性
3 科学の技術化路線から落ちこぼれている物
4 得たものと失ったもの
四・一 得たもの──プラスの側面/四・二 失ったもの──マイナスの側面/四・三 客観的に見て異様な光景
5 現代のパラドックス(得失の逆転)
6 技術の特質
(付録)共有地の悲劇

課外講義 III ノーベル賞の現実
1 ノーベル賞の受賞国の推移
2 近年の特徴
3 ノーベル賞受賞数の人口比
4 ノーベル賞の教訓


第 III 部 科学と科学者倫理
第九章 科学者の倫理と社会的責任
1 科学の二面性に対して
2 科学者の行動規範
3 科学者の心情の特質
4 科学者の三つの責
5 科学者の倫理責任
五・一 倫理違反/五・二 倫理違反の古典例/五・三 最近の国際的な事例/五・四 最近の日本の事例
6 社会への説明責任
六・一 研究予算への説明責任/六・二 説明責任としての大学評価/六・三 その他の説明責任
7 科学者の社会的責任
七・一 歴史/七・二 JASONとUCS・UAS/七・三 社会的責任を果たす

第十章 安全性の考え方
1 「安全」と「安心」
2 リスク評価と安全性の証明
3 リスク評価の「進化」
4 安全性の証明法
5 事故の背景
6 ハインリッヒの法則
7 チャレンジャー事故の教訓
8 レギュラトリー・サイエンス

課外講義 IV トランス・サイエンス問題
1 どんな問題がある
一・一 反倫理性を内蔵する科学・技術の問題/一・二 不確実な科学知の問題/一・三 技術の「妥協」の問題/一・四 確率・統計現象に関わる問題/一・五 「共有地の悲劇」が予想される問題/一・六 コスト・パフォーマンス論に関わる問題/一・七 レギュラトリー・サイエンスに関わる問題
2 持ち込むべき科学以外の論理
二・一 通時性の思考の回復/二・二 予防措置原則/二・三 少数者・弱者・被科害者の立場の尊重

第 IV 部 科学・技術と現代社会を巡る諸問題
第十一章 エネルギー・資源問題
1 文明社会の盛衰
2 地下資源文
3 エネルギー源の問題
三・一 在来型エネルギー源/三・二 非在来型エネルギー/三・三 再生可能エネルギー/三・四 エネルギー資源の枯渇がもたらすもの
4 鉱物資源問題
四・一 存在量と使用目的による分類/四・二 問題点
5 水資源問題
6 私たちの今後

第十二章 地球環境問題
1 地球温暖化
一・一 地球温暖化の実態と原因/一・二 地球温暖化のフィンガープリント/一・三 複雑な関係/一・四 異論
2 オゾン層の破壊
3 その他の問題
三・一 酸性雨/三・二 森林破壊/三・三 水不足・砂漠化・塩類集積/三・四 海水汚染/三・五 その他の環境汚染
4 生態系の危機と持続可能性
5 環境問題に関わった国連の活動
五・一 一九七二年のストックホルム宣言/五・二 一九九二年のリオデジャネイロ宣言/五・三 一九九七年の京都議定書/五・四 二〇〇二年のヨハネスブルグ・サミット/五・五 二〇一二年の国連持続可能な開発会議/五・六 環境に関わる国際的な条約
6 エコロジカル・フットプリント

第十三章 核エネルギー問題
1 原子核と原子
2 核分裂(原爆)と核融合(水爆)
二・一 原爆/二・二 水爆/二・三 原爆・水爆開発の歴史
3 核兵器
4 核実験・人体実験・核実験禁止条約
四・一 核実験/四・二 核開発と人体実験/四・三 核実験禁止条約
5 核戦争の危機
6 核兵器削減交渉と核抑止論の欺瞞
7 原発開発の歴史
七・一 大型原発への道/七・二 日本の原発開発史/七・三 日本における主な原子力事故/七・四 日本の原子力政策の特異性
8 トリウム原子炉
9 核融合発電

第十四章 バイオテクノロジー問題
1 生命体の定義
2 分子生物学
3 遺伝子組み換え
三・一 原理と歴史/三・二 遺伝子組み換え作物/三・三 ヒトの遺伝子操作/三・四 ES細胞とiPS細胞
4 医療問題
四・一 バイオエシックス/四・二 中絶と生殖医療/四・三 安楽死尊厳死/四・四 脳死と臓器移植/四・五 バイオエシックスからバイオポリティックスへ

課外講義 V 地下資源文明から地上資源文明へ
1 地下資源文明から
2 地上資源文明の時代へ
3 地下資源文明の技術体系
4 地上資源文明の技術体系
5 地上資源文明への可能性

第十五章 情報化社会問題
1 IT革命の歴史
2 IT技術の光(オープンサイエンス)
二・一 マルチメディアにより生活空間が拡大している/二・二 新しいタイプの学びの場が作られている/二・三 情報の電子化による知識の集積と利用が容易になっている/二・四 新しい等身大の科学の可能性が開けている/二・五 新しいビジネスが展開しつつある/二・六 電化製品などに使われ、省エネルギーに寄与する/二・七 人工知能などの新しい技術の展開に応用できる
3 IT技術の影
三・一 情報の集中化の危険性がある/三・二 デジタル化の弊害/三・三 情報から離れられなくなる/三・四 情報格差が生じる/三・五 ハイテク汚染
4 監視社会の現出
四・一 個人監視の必要性/四・二 個人監視の負の側面/四・三 より拡大した個人の監視
5 IT社会の未来
五・一 デジタル環境の整備/五・二 監視社会にならないために/五・三 情報選択の技術の習得/五・四 情報記憶媒体の喪失を防ぐ

課外講義 VI 生物の統一理論はあるのか
1 生物を特徴づける
2 代謝率と体重との関係
3 体重の3/4乗則の登場
4 恒環境動物としての人類
5 体重の3/4乗則が持つ意味
6 x/4乗則が意味すること

おわりに
1 科学者の評価の視点を変える
2 最後の最後に

あとがき