長谷部恭男著『憲法学のフロンティア』(1999)

憲法学のフロンティア

憲法学のフロンティア

人権、公共の福祉、主権といった、憲法に登場する基本概念はそもそも何のためにあるのか。放送の自由やプライヴァシー権など現代社会で生まれた新しい問題の探求を通じて、いま、憲法について根底から考える。

第1章 リベラル・デモクラシーの基底にあるもの
第2章 個人の自律と平等
第3章 信教の自由と政教分離
第4章 「二重の基準論」と司法権の役割
第5章 主権概念を超えて?
第6章 プライヴァシーについて
第7章 行政情報の公開と知る権利
第8章 多チャンネル化と放送の自由
第9章 メディア・モデルの探究と溶解

88 (憲法制定権力について)「杉原泰雄教授の主権理論では、そのような無毒化の方向が図られているかに見える。教授は憲法制定権力は、法外の現象であり、主権をそのような制憲論と同一視するのは、実弟憲法上、主権者たる国民を主権者たる地位から追放することを可能とするとして批判する。主権原理は、あくまで国家権力の法的帰属の問題である。そして、教授の理論では、人民、具体的には選挙民を主権者とする直接民主制の正当性とその将来における実現可能性が、社会・経済的な構造の分析にもとづいて提唱されている」
88 杉原『国民主権の研究』(1971)

89「逆に言えば、この杉原教授の基本的なプログラム(主権概念の歴史的解釈)に同意しえない者にとっては、簡単に、主権概念を安全な解釈論上の道具として取り扱うことはできないはずである。たとえば、辻村みよ子教授は、史的唯物論は杉原教授のプログラムに固有のものであり、人民主権論一般が前提するものではないと指摘するが、だとすれば、人民主権という観念を解釈論上用いることには、さらに細心の注意が要求されることになるであろう」