ハル・アベルソン,ケン・リーディン,ハリー・ルイス,ウェンディ・セルツァー著,尼丁千津子訳『教養としてのデジタル講義ー今こそ知っておくべき「デジタル社会」の基礎知識』(2020=2021)

 

「デジタル社会」の弊害と危険を避けて、恩恵と可能性を見いだすための1冊です。

フェイクニュース、誹謗中傷、情報漏洩、さまざまな権利侵害……。
社会や企業において「デジタル化」が急速に進んでいます。
生活等が便利になる反面、デジタル化の弊害や危険も大きく、かつ、身近になっています。
本書は、ますます顕著になる弊害や危険を避けて、デジタルの恩恵と可能性を活かすために、
MIT(マサチューセッツ工科大学)やハーバードの有名教授らが、
「デジタルの本質」を徹底的に分かりやすく全部教えます。
私たちを覆うデジタル化の波をしっかりと乗り越えるために、
その危険性と可能性をきちんと把握することは、
誰にとっても極めて重要な知見になるはずです。

2020 年の新型コロナウイルスの世界的な大流行によって、デジタル革命の意味やその影響力の大きさがこれほどまで世間の脚光を浴びるようになるとは、誰も予測できなかった。ほんの数週間で、幼稚園から大学院にいたる教育機関は「バーチャル」になった。6歳の子どもが、ビデオ会議を完璧にこなせるようになったのだ。また、オンライン注文が、日常のニーズを満たすための主な手段となった。そして、テレワークは当たり前になったが、これは10 年前には想像もつかなかったことだし、そのさらに10 年前には到底不可能なことだった。
そこで、デジタルの世界が「どういうものか」、そして「その仕組みとは」をそれぞれ深く理解することが、この革命が続いている世界での賢い選択につながるのではないかと、私たち筆者は期待も込めて考えた。
「はじめに」より

本書の初版(原著の第1版)は2010年に書かれた本である。(中略)インターネット以前の米国において次々と生まれてくるテクノロジー産業に対してどのような抵抗をして、どのようなルールを作り、調整したり戦ってきたかという歴史と、そのメタファーに対比して、すでに明らかになっていたインターネット以後のデジタル社会の難しさを、生まれてきた技術やその原理を丁寧に、しかも網羅的に解説した、他にはない本となっていた。
さらに、それにその後の10 年の課題が増補されて作られたのが、本書(原著の第2版)である。この10 年の増補分の意味は、極めて重要な新たな経験に基づいている。技術はもちろん急速に発展し続ける。GAFAM がついに世界の経済のトップに君臨する。彼らが主導するAI に対する恩恵とともに社会不安や社会混乱が膨らんできた。インターネット上のメディアで力をつけた、従来と全く違う人や集団の政治活動もあった。10年後の改訂が原著の意味を全く失っていない、それどころか意味が倍増している理由は、科学と技術の正確な把握と解説に基づいた警鐘や議論が全く正しかったことを示している。ジョージ・オーウェルが『一九八四年』という小説を書き、ビッグ・ブラザー監視社会のなかで、人類はどう生きていくのかというリスクは深まっている。監視と自由、アメリカはこれを何度も議論し、訴訟し、対立しつつもこの中間点を探っていた。
本書はそういったアメリカの自由主義社会の形成と、国内での安全保障を含む政府の役割のふたつの対立軸の双方がどのような調整を図り形成してきたかをデジタルサービスの技術の解説、関連アナログサービスからのメタファー、それぞれの判例をもって教えてくれる。テクノロジーはこうして発展するということを、法治国家、裁判、立法そして市民の自由と権利とプライバシーのなかでどう調整を図りアメリカで推移したかが網羅的に分かる大変貴重な書になっている。ただし これはアメリカの判例での議論なので、アメリカでの文化や背景事情を同時に理解する必要がある。翻訳者はこの点を理解して極めて丁寧に訳注として補完していることは高く評価できる。
(中略)日本は米国やヨーロッパとは異なる個人民主主義あるいは政府の検閲の経験を持つ。故に、このグローバルな空間のなかで日本が何を目指すのかということをまずしっかり考える必要がある。高齢化社会や自然災害とともに生きる私たちが本書から何を学び、どのように未来を考えるのか。そのためには日本独自のアプローチもある。それを元に世界と協調し、世界に貢献することができる。私自身は、このような我が国のデジタル社会の形成に希望と期待を大きく抱いている。本書から学び、我が国の課題に取り組み未来を創造する。これが日本の役割なのだと思う。 「解説 by 村井純」より

第1章 デジタル爆発
起きている理由と問題点は何か?
第2章 白日のもとに晒される
失われたプライバシー、捨て去られたプライバシー
第3章 あなたのプライバシーを所有しているのは誰?
個人情報の商業化
第4章 ゲートキーパー
ここは誰が仕切っているのか?
第5章 秘密のビット
破られない暗号はいかにしてできたのか
第6章 崩れるバランス
ビットの所有者は誰なのか?
第7章 それはインターネットでは口にできない
デジタル世界における不穏な動きを監視する
第8章 空中のビット
古いメタファー、新たなテクノロジー、そして言論の自由
第9章 次の未開拓分野へ
AI と将来のデジタル化された世界