井上達夫著『世界正義論』(2012)

世界正義論 (筑摩選書)

世界正義論 (筑摩選書)

世界では今、貧困が原因で一日に五万人近い命が失われている。他方で二〇〇三年には超大国アメリカが、恣意的な口実でイラク侵攻を正当化し、非戦闘員を含めて少なくとも十万人ものイラク国民が戦死している。世界貧困という巨大な問題が放置され、自国に有利な「正義」が跋扈する現代世界。国ごとに「正義」が異なり、国境の内外でも異なるという現実。こうしたなかで、「国境を越え、覇権を裁く正義」としての世界正義はいかにして可能か。本書は、この問いを原理的・包括的に探究する法哲学の書である。

第1章 世界正義論の課題と方法
第2章 メタ世界正義論―世界正義理念の存立可能性
第3章 国家体制の国際的正統性条件―人権と主権の再統合
第4章 世界経済の正義―世界貧困問題への視角
第5章 戦争の正義―国際社会における武力行使の正当化可能性
第6章 世界統治構造―覇権なき世界秩序形成はいかにして可能か

蓮實重彦著『「私小説」を読む』(1985→2014)

志賀直哉藤枝静男安岡章太郎を貫く「私小説」の系譜―。だが、著者はここで日本文学の一分野を改めて顕揚したり、再定義を下したりはしない。本書は、我々が無意識・無前提に受け入れている「読みの不自由さ」から離れ、ひたすら、いま、ここにある言葉を読むこと、「作品」の表層にある言葉の群との戯れを通じ、一瞬ごとの現在を生きようとする試みなのである。「読むこと」の深みと凄味を示す、文芸批評の名著。

廃棄される偶数―志賀直哉『暗夜行路』を読む(構造=主題=系列
偶数性の圏域
双極的世界と反復)
藤枝静男論―分岐と彷徨(大地隆起、そして陥没
恥辱と嫌悪、そしてその平坦な舞台装置
家系、妻、そして芸術
分岐するものたち
奪われる言葉たち)
安岡章太郎論―風景と変容(回避と遭遇の背理
中間層の彷徨者たち
作品=作家=文学
『流離譚』を読む)