蓮實重彦著『「私小説」を読む』(1985→2014)

志賀直哉藤枝静男安岡章太郎を貫く「私小説」の系譜―。だが、著者はここで日本文学の一分野を改めて顕揚したり、再定義を下したりはしない。本書は、我々が無意識・無前提に受け入れている「読みの不自由さ」から離れ、ひたすら、いま、ここにある言葉を読むこと、「作品」の表層にある言葉の群との戯れを通じ、一瞬ごとの現在を生きようとする試みなのである。「読むこと」の深みと凄味を示す、文芸批評の名著。

廃棄される偶数―志賀直哉『暗夜行路』を読む(構造=主題=系列
偶数性の圏域
双極的世界と反復)
藤枝静男論―分岐と彷徨(大地隆起、そして陥没
恥辱と嫌悪、そしてその平坦な舞台装置
家系、妻、そして芸術
分岐するものたち
奪われる言葉たち)
安岡章太郎論―風景と変容(回避と遭遇の背理
中間層の彷徨者たち
作品=作家=文学
『流離譚』を読む)