古賀光生「西欧の右翼ポピュリスト政党の台頭は、「文化的な反動」 によるものであるのか? ―政策の比較分析から検討する」『年報政治学』2019年, 70巻, 2号, p. 2_84-2_108

本文

本稿は、西欧における右翼ポピュリスト政党の 「文化的な」 争点への態度を検討する。ノリスとイングルハートによる有力な先行研究 (Pippa Norris and Inglehart 2019) は、「権威主義的なポピュリスト」 の支持拡大は、脱物質主義的な価値観の主流化に対する物質主義者を中心とした 「文化的な反動」 が原因であるとする。そのような理解に従えば、右翼ポピュリスト政党は、同性婚への反対や女性の社会進出への否定的な態度など、「文化的な反動」 にふさわしい主張をしていると考えるのが妥当である。しかし、先行研究は、一部の右翼ポピュリスト政党が必ずしもこうした立場にはないことを指摘している。そこで本稿は、西欧の六つの右翼ポピュリスト政党の文化的な争点への態度について、比較マニフェスト分析を用いて、その 「反動的」 な態度を検討する。分析の結果は、これらの党は、移民への態度などで 「権威主義的」 姿勢を示すものの、社会的な争点については、他の政党類型と比べて、特段 「反動的」 とは呼べないことが明らかになった。こうした知見は、必ずしも直ちに先行研究に修正を強いるものではないものの、現状の議論の枠組みに対して、一定の回答すべき 「謎 (puzzle)」 を提示するものである。