入江由規「「ゲスト」へと変貌したオタクたち : アニメ聖地巡礼者の交流から」『フォーラム現代社会学』2014年, 13巻, p.58-70

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本稿の目的は、なぜ、アニメやゲーム、コミックの舞台を訪れる「聖地巡礼者」が、これまで「変わり者」と見なされることの多かった、アニメやゲーム、コミックを愛好するオタクであるにもかかわらず、それらに必ずしも関心のある訳ではない、作品の舞台となった町の住民や商店主らにとっての「ゲスト」へと変貌を遂げたかを分析することにある。オタクの対人関係は、これまで、趣味や価値観を共有する人とだけ交流する、閉鎖的な人間関係を築くものと捉えられることが多かった。だが、聖地巡礼者は、アニメやゲーム、コミックを愛好するオタクであるにもかかわらず、作品の舞台となった町に住む住民や商店主と交流を図り、時に作品を活かした町おこしを模索する企業人や研究者とも、共同でイベントを開催する関係を築いている。このことは、これまでのオタク研究では捨象されてきた、オタクの新たなコミュニケーションの実態を表していた。上記の目的に基づき、本稿では、アニメ作品の舞台を旅する「アニメ聖地巡礼者」に聞き取り調査を行った。その結果、彼らは、住民への挨拶といった礼儀を大切にし、商店主や企業人、研究者からの依頼を、物質的な見返りを求めることなく、自分たちが好きな作品で町おこしが行われるからという理由で最後までやり遂げることで、住民や商店主、企業人や研究者から信頼を得て、「ゲスト」へと変貌を遂げたことが分かった。