鹿島あゆこ「『時事漫画』にみる「サラリーマン」の誕生」『フォーラム現代社会学』2018年, 17巻, p.78-92

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サラリーマンという言葉の一般への普及は大正期から昭和初期といわれている。本稿の目的は、この普及に一役買ったといわれる『時事漫画』の検討を通じて、当該時期におけるサラリーマンイメージの形成と展開を明らかにすることである。『時事漫画』から選出した計297の漫画作品を、3つの時期に区分して分析した。その結果、サラリーマンという言葉の下で一定のイメージが共有されるようになっていく過程には、失業と消費という2つの要素が関係していたことが明らかになった。まず大正初期から大正中期にかけて、「サラリーメン」という言葉のもとで、社会状況や雇用主によって生活基盤を左右されやすい被雇用者という側面が焦点化された。それは、当時の日本社会においては相対的に上層の階級とみなされていた「サラリーメン」階層が、乱高下する経済状況によって次第に困窮していく過程で形作られたイメージであった。このイメージを下地にして、大正後期から昭和初期にかけては、主に広告漫画の中で、新しい消費財を消費することでよりよい生活を営む代表的な主体としての「サラリーマン」が描かれた。それは、当事者ではない他者の目線から描いたイメージが、広告という媒体によって自己のイメージに変換されはじめる過程でもあった。こうして、「私的生活においては消費者であり、公的生活においては被雇用者であるサラリーマン」という表現が誕生した。