池田裕「自己利益と福祉国家への支持 ―経済発展と所得格差の役割―」『フォーラム現代社会学』2019年, 18巻, p.3-17

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自己利益の仮定によれば、社会経済的に不利な立場にある人ほど、福祉国家から利益を得る可能性が高いので、福祉国家を支持する傾向が強い。それゆえに、女性は男性よりも福祉国家に好意的であり、職業的地位が高い人ほど福祉国家に好意的でないと考えられる。しかし、福祉国家に対する態度の男女差と階級差の大きさは、国によって異なると報告されている。すなわち、社会経済的に有利な立場にある人が、そうでない人と同じ程度に福祉国家を支持する国もある。これは、自己利益の仮定が成り立つ国もあれば、そうでない国もあることを意味する。そのような国家間の差異を説明するのが、本稿の目的である。

国際社会調査プログラム(ISSP)のデータを用いたマルチレベル分析によれば、自己利益の仮定が成り立つかどうかは、各国の経済発展と所得格差の水準に依存する。第一に、福祉国家への支持に対するジェンダーの効果は、一人当たりGDPが低い国ほど小さい。第二に、福祉国家への支持に対する職業的地位の効果は、ジニ係数が高い国ほど小さい。自己利益の仮定は、理論的には強力だが、実際には普遍的でない。自己利益の仮定の妥当性が高いのは、豊かで平等な国である。そのような国の福祉国家プログラムは、集団間の対立を引き起こす可能性が高い。