谷本奈穂「〈イメージ〉の生成という視覚経験 ー読む・ふれる・見る」『社会学評論』2005年, 55巻, 4号, p.418-433

本文

本稿では複数ある「ものの見方=視覚モード」を整理する.「言葉」をモデルにして対象に潜む意味や物語やイデオロギーなるものを「読解」するというモードや, 「芸術作品」をモデルにして対象と (論理を媒介にしない) 「直接的交流」をするモードが考えられる. しかし現代においては, メディア (広告ポスター, テレビ, マンガ, インターネットの動画) をモデルにした視覚モードもある.本稿ではそのモードを〈イメージ〉の生成と名づけた. このモードは「じっくり鑑賞する」というより「ちらっと・ぼんやり散見する」点, 対象に表層と深層があるとするなら「深層」ではなくて「表層」に焦点を当てる点に特徴がある. また〈イメージ〉の生成の登場は, 人が魅惑に対してむしろ醒めて麻痺したような態度を取るようになったことを意味している.

クレーリー, Crary, J., 1989, "Spectacle Attention, Couter-Memory," October, 50: 96-107., 1990, Techniques of the Observer, Cambridge: MIT Press. (=1997,遠藤知巳訳『観察者の系譜 視覚空間の変容とモダニティ』十月社.) 既読 「視覚とは,単なる網膜上の反応ではなく,むしろ社会的な過程 や経験として捉えうる.」