張瑋容「〈日本〉をめぐるファンタジー ードラマ「おっさんずラブ」の台湾人ファンの言説分析から」『年報カルチュラル・スタディーズ』2019 年, 7巻, p.73-94

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本論文は1990 年代哈日現象の影響を引き継ぎ、日本の物事への好意的な受容が一般化しつつある現代台湾の文脈の下で、日本のメディアコンテンツの受容から、台湾人視聴者と〈日本〉との関係性を解くことを試みる。具体的には、インターネット掲示板「PTT」の中の日本テレビトラマ掲示板で起きたドラマ「おっさんずラブ」の人気現象に注目し、そこに掲載される「おっさんずラブ」の関連投稿の考察を通じて、ドラマをめぐる言説に投影される台湾人視聴者の「〈日本〉への眼差し」の解析を、本論文の目的とする。
 まずは「〈日本〉への眼差し」を軸に先行研究を整理した結果を、「〈日本〉をめぐるファンタジー」という重層的で変動的な諸世代の〈日本〉への集合的想像によって持続的に形成されつつある動態的な枠組みで概念化した。この概念に基づき、「おっさんずラブ」の関連投稿の言説分析を通して、台湾人視聴者の「おっさんずラブ」への眼差しの向こう側に 映っている「〈日本〉をめぐるファンタジー」の重層的で変動的な構造を解析できた。言説の集中と反復、修正と転向により構築・増強されながらも、常にゆらぎとズレを伴うこの不安定な構造は、以下の三次元を行き渡って構造化されていくものである。それは①男性同士のホモセクシュアリティをめぐるユートピアと、②ドラマの構造に向ける良質ドラマ の理想像への期待といった、ドラマの「内部」に向ける視聴者の眼差しから解析された次元、及び③〈日本〉を重要な他者と位置づける集合的想像というドラマを抽象化する「外部」の議論から解析された次元を行き渡って構造化されていくものである。台湾人視聴者の重層的な〈日本〉への眼差しにより照らし出されたこの言説空間のゆらぎ、不安定性、自己増強・回復の性質は、「〈日本〉をめぐるファンタジー」という構造を前面化させてくれるのである。