石川洋行「アイロニーに抗する〈主体〉―松田聖子/中森明菜の文化社会学的考察―」『ソシオロゴス』2015年, 39号

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本稿は、松田聖子及び中森明菜が直面した主体性の問題に関して、文化社会学的観点からの考察を試 みるものである。松田は記号による意味の失効化と女性の自立という二つの物語を背負い、その人格を 多層化させながら 80 年代を通してそのアイドル性を革新し続けていった。他方で中森は、大人たちへの 実存主義的な抵抗から出発しながらも、次第に自らを異人としてまなざし、アイロニカルな人格の二重 化に定位された孤独を表現していく。自己と他者、現実と虚構の境界が曖昧化する両者の経過に対して、 本稿では 80 年代日本におけるアメリカニズムの特殊な転位と、メディア論的な自己準拠性の二点から理 論的分析を行いつつ、これらが主体性に強いた急激な変化に対し、両者が適応を試みたと同時に、「ほん とうの私」を消滅させていくアイロニズムに対する抵抗的な〈主体〉を形成していたという両側面をそ の結論とする。