松井広志「ポピュラーカルチャーにおけるモノ ー記号・物質・記憶」『社会学評論』2013年, 63巻, 4号, p.503-518

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近年, デジタルメディアによるコンテンツ受容に関して, 「物質」の対概念としての「情報」そのものに近い消費のあり方が伺える. しかし, ポピュラーカルチャーの現場では, 物質的な「モノ」という形式での受容が依然として観察される. ここには「ポピュラーカルチャーにおけるモノをめぐる人々の活動」という論点が潜んでいる. 本稿の目的は, この受容の論理を多面的な視点から, しかも日常的な実感に即して読み解くことである. 本稿ではその動向の典型を, ポピュラーカルチャーのコンテンツを題材としたキャラクターグッズやフィギュア, 模型やモニュメントに見出し, これらを「モノとしてのポピュラーカルチャー」と理念的に定義したうえで, 3つの理論的枠組から捉えた.
まず, 従来の主要な枠組であった消費社会論から「記号」としてのモノの消費について検討した. 次に, 空間的に存在するモノを捉える枠組として物質文化論に注目し, とくにモノ理論から「あるモノに固有の物質的な質感」を受容する側面を見出した. さらに, モノとしてのポピュラーカルチャーをめぐる時間的側面を, 集合的記憶論における「物的環境による記憶の想起」という枠組から捉えた. これらの総合的考察から浮かび上がった「モノとしてのポピュラーカルチャー」をめぐる人々の受容の論理は, 記号・物質・記憶のどれにも還元されず, 時間的・空間的に重層化した力学の総体であった.

大西秀之,2009,「モノ愛でるコトバを超えて 語りえぬ日常世界の社会的実践」田中雅一編『フェティシズム論の系譜と展開』京都大学出版会

フェティシズム論の系譜と展望 (フェティシズム研究)

フェティシズム論の系譜と展望 (フェティシズム研究)

  • 発売日: 2009/03/06
  • メディア: 単行本
 

 アルヴァックス, 1925=2018『記憶の社会的枠組み』