森本あんり著『異端の時代-正統のかたちを求めて』(2018)

 

異端の時代――正統のかたちを求めて (岩波新書)

異端の時代――正統のかたちを求めて (岩波新書)

 

なぜトランプは世界を席巻し続けるのか.蔓延するポピュリズムは民主主義の異端か,それとも正統と化したのか――.キリスト教史の展開,丸山眞男らの議論を精緻に辿り,「正統と異端」の力学から現代人のかくれた宗教性と,その陥穽を示す.神学者が十年来抱えたテーマがついに結実,混迷する世界を読み解く鍵がここにある.

序 章 正統の腐蝕――現代世界に共通の問いかけ
 1 変質する政党政治
 2 反知性主義の行方

第一章 「異端好み」の日本人――丸山眞男を読む
 1 「L正統」と「O正統」
 2 異なる価値秩序の併存
 3 日本的な「片隅異端」
 4 未完に終わった正統論

第二章 正典が正統を作るのか
 1 宗教学の諸前提
 2 書物になる前の聖書
 3 正典化の基準
 4 異端が正典を作る
 5 歴史の審判

第三章 教義が正統を定めるのか
 1 ハルナックの困惑
 2 正典から教義へ
 3 「どこでも,いつでも,誰にでも」
 4 根本教義なら正統を定義できるか
 5 始源も本質を定義しない
 6 「祈りの法」と「信仰の法」

第四章 聖職者たちが正統を担うのか
 1 「地の黙した人々」に聞く
 2 厳格な性倫理という誤解
 3 オリゲネスの後悔
 4 高貴なる異端
 5 凡俗なる正統

第五章 異端の分類学――発生のメカニズムを追う
 1 正統の存在論
 2 現代民主主義の酩酊
 3 異端発生のメカニズム
 4 分派・異端・異教

第六章 異端の熱力学――中世神学を手がかりに
 1 社会主義体制との比較
 2 ドナティストの潔癖
 3 秘跡論から見る正統
 4 丸山の誤解
 5 改革の熱情

第七章 形なきものに形を与える――正統の輪郭
 1 絵の本質は額縁にあり
 2 異端排斥文の定式
 3 制約による自由
 4 「複数可算名詞」としての自由
 5 正統の受肉

第八章 退屈な組織と煌めく個人――精神史の伏流
 1 個人の経験が判断の基準に
 2 自己表現の至高性
 3 普遍化する異端
 4 個人主義的宗教の煌めき
 5 反骨性のアイコン
 6 今日もっともありふれた宗教形態
 7 個人主義的宗教の特徴

終 章 今日の正統と異端のかたち
 1 民主主義とポピュリズム
 2 正統性を堪能する人びと
 3 信憑性構造としての正統
 4 真正の異端を求めて

引用文献/参考文献

 10 ナイム『権力の終焉』

権力の終焉

権力の終焉

 

 57「正典はしばしば、正統派が異端を排除するために作った道具立てであるかのように見なされる。だが、事実は逆で、まず異端(マルキオン)が正典を作り、それにあわてた正統が自分たちでも正典(ムラトリ断片)を作って対抗したのである。つまり、異端は正典を根拠として排除されたのではない。正典が異端を排除したのではなく、むしろ異端が存在したおかげで正典が成立したのである」

218 先崎『違和感の正体』

違和感の正体 (新潮新書)

違和感の正体 (新潮新書)

 

 トドロフ『民主主義の内なる敵』

民主主義の内なる敵

民主主義の内なる敵