木庭顕著『法学再入門 秘密の扉ー民事法篇』(2016)

法学再入門 秘密の扉―民事法篇

法学再入門 秘密の扉―民事法篇

法学教室2013年4月号〜2015年3月号までの好評連載の待望の単行本化。法律学の学習になじめない学生のために著者が実際に行った講義を,紙上で余すところなく再現。「二ボレ」Profと学生たちによる,面白くて鋭い,白熱した議論が展開される。

口上
第一話 占有
第二話 民事訴訟の基礎
第三話 取得時効,豪華付録付き
第四話 消費貸借
第五話 相続財産
第六話 契約
第七話 所有権
第八話 不法行為
第九話 賃貸借,役務提供
第十話 債務処理
第十一話 法人
第十二話 担保・執行・破産

22「したがって、どうしても、全員が敵にまわってもなお理を立てうるという仕組みがなければいけません」「そういう仕組みを政治ないし政治システムと言います」
40 原告適格に欠ける、訴訟代理
42 民事訴訟は二段になっている。「入り口では占有の審査をする。いや、それしかしない。してはならない。すると自動的に誰が誰に言っていくのか、ということが決まる。そして精査の手続ではこの「言っていく」内容が正しいかどうかだけを精査する」第一段階→訴訟要件の審査→訴訟判決、第二段階→本案の審理→本案判決
43 職権主義、当事者主義
44 原告と被告の役割分化、攻守交代、被告は占有者がなる、被告の勝利が前提されており、原告はこれを覆さなければならない
48 自由心証主義
49 弁論主義のルール、1.争点決定、2.証明責任、3.証拠共通の原則
85「政治システムが人権を保障すると言っても、別途、司法ばかりか、政治システムからも相対的に独立のエイジェントが立たねばなりません。護民官ですね。これが立つようになったとき、その政治システムはデモクラシーに移行したと言います」
237「政治システムによって自由を概念することの重要な帰結は心身二元論です。「故意なければ責任なし」という刑事法の大原則はそのひとつの表れです。政治は実力及び利益交換に満ちる領域から離脱する空間を構築することを意味します。しかし同時に、その領域の実力及び利益交換を制圧する任務を帯びます。だから二元論です。後者を放っておくわけではない」
238「占有という考え方も、政治システムの下、或る意味で幻覚な二元論によって基礎づけられています。主体とその客体を一義的に分けます。これは個人の自由を厳密に概念することのコロラリーです。他方、これと別に占有は責任の考え方を拒否します。現在の状況を確定し責任を追及したりしない。意図的でないとしても占有侵害があればこれをブロックしうる」「つまり、二元論でありながら過失責任原則は登場せず、故意責任原則の方に忠実であることに着目してください。これは占有の一義性をヨリ重視するからです」
「これに対して過失責任原則を欲する事態が新たに登場します。占有が二重に概念され、二重構造で思考しなければならない。そういう状況になると自ら責任帰属が複雑になる、ということは自明ですね。そう、所有権概念が基軸たる役割を担う段階で、テクニカルな意味での過失概念が登場したのです。主体=客体間の二元論が一層複雑に二元化されるとき、責任分配が一層複雑になるのは当然のことです。Aに市民的占有が帰属している。しかしその下で単純な占有をBが有している。Bから発した占有侵害から発生した損害にどこまでAが責任を負うか。Aの市民的占有圏内に事柄が起因するとも言える。だったらAに賠償請求するか、しかしAは「自分は日頃重々Bに対して注意喚起していた」、「しっかり管理していた」と言うだろう。こういう抗弁は認められてしかるべきだろう。この抗弁は大きな占有の内部の縦の中仕切り、つまりAの占有の下部にBの占有が入れ子になっていることに対応しているだろう。これが、確かに私の占有内に発しております、「しかし私に過失は有りません」(sine culpa)という抗弁です」
272「普通はlocatorが対価を撮り、conductorが代わりに果実をいただく。これは雇用も賃借権も同じです。ところが請負においてだけ、locatorに果実が真っ直ぐ行き、locatorがconductorに対価を払う」
350 substratum サブストレイタム:法人の基礎・基盤
351 pia causa ピア・カウサ:慈善・公益