八木雄二著『中世哲学への招待−「ヨーロッパ的思考」のはじまりを知るために』(2000)

ヨーロッパ中世の哲学。それは一般的イメージとは異なり、けっして骨董品でも、神秘主義めいたものでもない。古代の哲学とキリスト教の思想を引き継ぎながら、科学的思考やさまざまな概念をつくりだし、近代を準備したいとなみだったのだ。“精妙博士”ドゥンス・スコットゥスの哲学を軸にしてヨーロッパ的思考を理解するための要をさぐる、アクチュアルな中世哲学入門。

その1 生涯の風景
その2 神の存在
その3 個別性について
その4 記憶と理解と愛(三位一体論)
その5 自由と意志
その6 時間と宇宙

119「ヨハネスの説明がトマスと違うのは、人間一人一人のかけがえのなさを、神性との結びつきのなかに置くことになった点である。神性は、超越的完全性であったので、質料を基盤とした個体性に結びつけることには無理があった。なぜなら超越的完全性は、個別的な形相的属性であって、質料的な個別的属性ではないからである。ヨハネスは、個体性の基盤に形相性を置くことによって、神と個物の関係を、普遍的知識(質料からの抽象認識)を通じた間接的なものから、個別的で直接的なものと見る世界を切り開いたのである」